斬魄刀異聞過去編
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咲は己の血で紅く染まる川を見つめ、破涙贄遠を握り締めた。
そして、今は亡き志波の解号を口にする。
「這い回り焼き尽くせ 焔蛇 。」
咲を中心に、霊圧とともに焔が水の上を舐めるように広がる。
すぐに消えたが、これが水辺でなけれぼ辺りは燃え尽くされていたことだろう。
焔はすぐそばにいた山本の袖を焦がした。
彼はその斬魂刀を見たことがあった。
そして当然響河も。
「それは志波の!!」
思わず声を上げる響河に、咲は刀を大きく振る。
蛇のような焔が一直線に目を見開く響河へと向かう。
彼は大きく飛び上がったが、焔の蛇もそれを追いかけてまるで花火のように打ち上がり、響河を巻き込んで爆発した。
咲は気配に大きく飛ぶ。
背後から山本の剣が襲いかかってきたのだ。
つまり、響河はまだ生きているーー咲は歯を噛み締め振り向きざまに、刀を大きく振るった。
「野火!」
炎がうねうねと山本へと走る。
山本は水を回転するように巻き上げ攻撃を防いだが、その水に焔が巻き込まれてもなお、しばらく消えることはなかった。
咲は諦めることなく川底に刀を突き刺す。
「潜焔!」
次の瞬間、巻き上げられていた水の中央から火の手が上がる。
先の攻撃から何とか身を守ったものの、ひどい火傷をおった響河はその炎に照らされ目を細めた。
「……ここまで使いこなすとは」
巨大な爆発が起き、響河の髪を後ろになびかせる。
あたりに水蒸気が満ちた。
咲の目に、黒い人影が映る。
「お前、それ……」
次の瞬間、甲高い音を立てて、刃がぶつかっていた。
「細身に蛇の彫模様、炎のような房飾り。
……志波のだ」
間近で山本が確認する。
咲の瞳が揺らいだ。
「……私は、」
「分かってる。
お前が裏切って志波の刀を奪ったとか、そんなことは考えてねぇ」
一瞬あいた距離に、咲は異変を感じて更に距離を開けようと飛びずさる。
次の瞬間、霊圧を纏った時雨金時が、鋭い突きを放ってきた。
「十一の型 燕の嘴 ッ?!」
技に驚いて一発目をなんとかかわすも、刃は腕をかすめ、血飛沫が舞う。
「逃げろ!」
連続で放たれるそれに、咲は必死に逃げる。
これで片をつけるつもりなのだろう。
おそらく響河も限界に近い。
「卯ノ花ッ!!」
山本もそれを分かっているのだろう。
苦しげに叫ぶ。
咲に答える余裕などない。
急所はなんとかかわしてはいるものの、深い傷が増える一方だ。
「うッ……く……」
切りつけられる度に漏れるうめき声を堪え、必死に避けるも、傷により動きは徐々に鈍っていく。
「……畜生ッ!!!」
肉の斬れる音、咲の痛みを堪える声、山本の苦しい叫び。
咲はそんな苦しげな山本の表情に、目を細める。
限界に近い足が水に取られてバランスを崩す。
すかさず山本の剣が狙うので、転倒に便乗して前転して体制を立て直す。
このままでは互いに苦しみ、悪戯に時と体力と精神力を無駄にする。
もし咲が負ければ山本は良くて自死、最悪の場合には仲間をーー元字塾の仲間、浮竹や京楽を殺しにまわらされるかもしれない。
神童と言われながらも総隊長の甥として努力を怠らなかった剣豪である山本が仲間を殺す事等、彼の心が許す筈はない。
それは彼の誇りを傷つけるどころの話ではなく、護廷を揺るがす事案だ。
とは言え彼を殺して咲自身生きた心地はしない。
これまでどれ程彼に支えられ、護られ、鍛えられたか、筆舌しがたい。
(でも、だからこそ……彼に罪は背負わせられない)
これ以上銀嶺の到着を待つことはできなかった。
山本を止めるにはもう限界が来ていた。
決死の覚悟で霊圧を足に集める。
深く脇腹を切りつけられたのを最後に、咲は山本の背後に回る。
山本はその動きを充分に認識できていた。
だからこそ、時雨金時に彼女を刺し殺すなと強く願った。
咲は山本が充分に自分の行動を認識でき、かつ咲が攻撃するよりも早く攻撃できないギリギリのスピードで背後に回り込もうとした。
つまりは、山本に刺し殺されることを、強く、強く願った。
肉が切れる生々しい音が、あたりに響いた。
生温かいものが刀を伝い、袖に、袴に、沁みていく。
遠くで何かが水に落ちる音がした。
それが時雨金時だと、咲が気づくまでに時間がかかった。
ドク、ドク、という山本の心臓の音が、間近で聞こえる。
彼の胸に飛び込むような格好で、咲は山本を刺し貫いていた。
「……なぜ、」
かすれた声が、漏れた。
予想だにしていなかったことが起きたのだ。
耳もとで山本が小さく笑った。
「悪い……不甲斐ない、先輩、だったな」
刺し違えて死のうと思ったのだ。
なのに、自分の身体に痛みはなく、己の刃は山本に深深と突き刺さっている。
彼はもうすぐ、死ぬだろう。
「ありが、と、な……」
山本の瞳が優しく弧を描く。
だが彼の胸に顔を埋める咲に、その表情を見ることはできない。
「何を感じた?」
背後から聞こえてきた響河の声に、咲の手が震えた。
なぜこんなことになったのか、気づいたからだ。
「まさか、貴方が……」
声も惨めに震えていた。
「そうだ。
お前に刀が刺さる間際、村正の力を消したのだ。
案の定、山本はお前を刺し殺さなかった。
見事な腕前よ」
「違、ぇ!」
山本の手が、咲の肩をひどく弱い力で抱きしめた。
「俺が、弱、く、て……
お、前が……強、くなっ…た、から……だ」
そして彼は咲から滑り落ちていく。
瞳の最期の輝きが咲を捕え、そしてその光が消えていくのを咲はじっと見つめた。
彼は水中に倒れた。
咲は目を見開いたまま、彼が立っていた場所をなおも見つめていた。
急に開いた視界の先には、響河が独り、立っていた。
「何を思った?
私は銀嶺の命令に従い、新入隊士の頃に俺の教育係だった上司を殺し、そして、三席を与えられた。
席などいらなかった。
上司に生きていてほしかった。
例え志は違おうと、あの方は私の、上司だった。
隊が変わろうと、ずっと、ずっと……」
咲は俯き、じっと山本の亡骸を見つめた。
入塾が決まったときも、人を殺した朝も、眩しい笑顔で迎えてくれた先輩は、もう2度とその笑顔を見せることはない。
見開かれた目は、もう2度と光を宿さない。
「これがお前の言う生きるための戦いをする護挺か?
お前の求める世界か?
考えろ。
俺はこんな世界、変えて見せる」
響河は消えた。
跡形もなく。
残されたのは咲一人だった。
生きている者は、咲ただ独りだった。
そして彼女は山本に突き刺さる刀を震える手で引き抜き、その返り血の中で、刃を己の喉に向けた。
そして、今は亡き志波の解号を口にする。
「這い回り焼き尽くせ
咲を中心に、霊圧とともに焔が水の上を舐めるように広がる。
すぐに消えたが、これが水辺でなけれぼ辺りは燃え尽くされていたことだろう。
焔はすぐそばにいた山本の袖を焦がした。
彼はその斬魂刀を見たことがあった。
そして当然響河も。
「それは志波の!!」
思わず声を上げる響河に、咲は刀を大きく振る。
蛇のような焔が一直線に目を見開く響河へと向かう。
彼は大きく飛び上がったが、焔の蛇もそれを追いかけてまるで花火のように打ち上がり、響河を巻き込んで爆発した。
咲は気配に大きく飛ぶ。
背後から山本の剣が襲いかかってきたのだ。
つまり、響河はまだ生きているーー咲は歯を噛み締め振り向きざまに、刀を大きく振るった。
「野火!」
炎がうねうねと山本へと走る。
山本は水を回転するように巻き上げ攻撃を防いだが、その水に焔が巻き込まれてもなお、しばらく消えることはなかった。
咲は諦めることなく川底に刀を突き刺す。
「潜焔!」
次の瞬間、巻き上げられていた水の中央から火の手が上がる。
先の攻撃から何とか身を守ったものの、ひどい火傷をおった響河はその炎に照らされ目を細めた。
「……ここまで使いこなすとは」
巨大な爆発が起き、響河の髪を後ろになびかせる。
あたりに水蒸気が満ちた。
咲の目に、黒い人影が映る。
「お前、それ……」
次の瞬間、甲高い音を立てて、刃がぶつかっていた。
「細身に蛇の彫模様、炎のような房飾り。
……志波のだ」
間近で山本が確認する。
咲の瞳が揺らいだ。
「……私は、」
「分かってる。
お前が裏切って志波の刀を奪ったとか、そんなことは考えてねぇ」
一瞬あいた距離に、咲は異変を感じて更に距離を開けようと飛びずさる。
次の瞬間、霊圧を纏った時雨金時が、鋭い突きを放ってきた。
「十一の型
技に驚いて一発目をなんとかかわすも、刃は腕をかすめ、血飛沫が舞う。
「逃げろ!」
連続で放たれるそれに、咲は必死に逃げる。
これで片をつけるつもりなのだろう。
おそらく響河も限界に近い。
「卯ノ花ッ!!」
山本もそれを分かっているのだろう。
苦しげに叫ぶ。
咲に答える余裕などない。
急所はなんとかかわしてはいるものの、深い傷が増える一方だ。
「うッ……く……」
切りつけられる度に漏れるうめき声を堪え、必死に避けるも、傷により動きは徐々に鈍っていく。
「……畜生ッ!!!」
肉の斬れる音、咲の痛みを堪える声、山本の苦しい叫び。
咲はそんな苦しげな山本の表情に、目を細める。
限界に近い足が水に取られてバランスを崩す。
すかさず山本の剣が狙うので、転倒に便乗して前転して体制を立て直す。
このままでは互いに苦しみ、悪戯に時と体力と精神力を無駄にする。
もし咲が負ければ山本は良くて自死、最悪の場合には仲間をーー元字塾の仲間、浮竹や京楽を殺しにまわらされるかもしれない。
神童と言われながらも総隊長の甥として努力を怠らなかった剣豪である山本が仲間を殺す事等、彼の心が許す筈はない。
それは彼の誇りを傷つけるどころの話ではなく、護廷を揺るがす事案だ。
とは言え彼を殺して咲自身生きた心地はしない。
これまでどれ程彼に支えられ、護られ、鍛えられたか、筆舌しがたい。
(でも、だからこそ……彼に罪は背負わせられない)
これ以上銀嶺の到着を待つことはできなかった。
山本を止めるにはもう限界が来ていた。
決死の覚悟で霊圧を足に集める。
深く脇腹を切りつけられたのを最後に、咲は山本の背後に回る。
山本はその動きを充分に認識できていた。
だからこそ、時雨金時に彼女を刺し殺すなと強く願った。
咲は山本が充分に自分の行動を認識でき、かつ咲が攻撃するよりも早く攻撃できないギリギリのスピードで背後に回り込もうとした。
つまりは、山本に刺し殺されることを、強く、強く願った。
肉が切れる生々しい音が、あたりに響いた。
生温かいものが刀を伝い、袖に、袴に、沁みていく。
遠くで何かが水に落ちる音がした。
それが時雨金時だと、咲が気づくまでに時間がかかった。
ドク、ドク、という山本の心臓の音が、間近で聞こえる。
彼の胸に飛び込むような格好で、咲は山本を刺し貫いていた。
「……なぜ、」
かすれた声が、漏れた。
予想だにしていなかったことが起きたのだ。
耳もとで山本が小さく笑った。
「悪い……不甲斐ない、先輩、だったな」
刺し違えて死のうと思ったのだ。
なのに、自分の身体に痛みはなく、己の刃は山本に深深と突き刺さっている。
彼はもうすぐ、死ぬだろう。
「ありが、と、な……」
山本の瞳が優しく弧を描く。
だが彼の胸に顔を埋める咲に、その表情を見ることはできない。
「何を感じた?」
背後から聞こえてきた響河の声に、咲の手が震えた。
なぜこんなことになったのか、気づいたからだ。
「まさか、貴方が……」
声も惨めに震えていた。
「そうだ。
お前に刀が刺さる間際、村正の力を消したのだ。
案の定、山本はお前を刺し殺さなかった。
見事な腕前よ」
「違、ぇ!」
山本の手が、咲の肩をひどく弱い力で抱きしめた。
「俺が、弱、く、て……
お、前が……強、くなっ…た、から……だ」
そして彼は咲から滑り落ちていく。
瞳の最期の輝きが咲を捕え、そしてその光が消えていくのを咲はじっと見つめた。
彼は水中に倒れた。
咲は目を見開いたまま、彼が立っていた場所をなおも見つめていた。
急に開いた視界の先には、響河が独り、立っていた。
「何を思った?
私は銀嶺の命令に従い、新入隊士の頃に俺の教育係だった上司を殺し、そして、三席を与えられた。
席などいらなかった。
上司に生きていてほしかった。
例え志は違おうと、あの方は私の、上司だった。
隊が変わろうと、ずっと、ずっと……」
咲は俯き、じっと山本の亡骸を見つめた。
入塾が決まったときも、人を殺した朝も、眩しい笑顔で迎えてくれた先輩は、もう2度とその笑顔を見せることはない。
見開かれた目は、もう2度と光を宿さない。
「これがお前の言う生きるための戦いをする護挺か?
お前の求める世界か?
考えろ。
俺はこんな世界、変えて見せる」
響河は消えた。
跡形もなく。
残されたのは咲一人だった。
生きている者は、咲ただ独りだった。
そして彼女は山本に突き刺さる刀を震える手で引き抜き、その返り血の中で、刃を己の喉に向けた。
