斬魄刀異聞過去編
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2度目の再会からは、お互い遠慮はなくなった。
咲は唯一心を閉ざしたまま戦える隊士として力を振るい、響河もそんな咲を迎えうった。
響河が隊士や一般市民を襲っているところに咲が駆け付け、戦闘になるのが常だった。
決着はつかないし、戦いに終わりも見えない。
響河はどれだけ隊士を殺しても、咲だけは殺せなかったし、咲もまた響河を殺せずにいた。
もしかしたら、互いに相手を殺すことを恐れていたのかもしれない。
バシャン
影が浅瀬へ着地したのを見て咲も木から飛び降りる。
彼をこうして追いかけるたびに、胸が痛む。
バシャン
袴が冷たい水を吸って重くなる。
それは咲の気持ちのようだった。
きらめいた紫電に、咲は咄嗟に受け身を取った。
刀が高い音を立て、腕にしびれるほどの重みを感じる。
「響河殿!」
「懲りぬやつだな」
目の前には鋭い瞳があり、苦々しげに咲を睨みつけている。
「もうおやめください!」
切りかかってくる刀をはじき返し、咲は必死に叫ぶ。
「処刑されるために行けと言うのか!」
「これ以上罪を深くされるのはおやめください!
貴方の成した素晴らしい結果の全てがこれでは」
「知らん!
俺の苦しみなど誰にもわからん!」
いつも通り議論は平行線。
死体ばかりが増える。
今日もここに来るまでに一般人1人、隊士3人が殺された。
でも、響河は咲には致命傷を与えられていなかったし、咲も響河に致命傷を与えられなかった。
「もういい!
卯ノ花はひっこんでろ!」
見るに見かねた山本が咲の前に躍り出、それにより今まで取れていた均衡が崩れる。
「可愛がっていた後輩に殺されるのも一興だろう。
囁け、村正!」
目を見開いた山本。
山本の体の自由が利かなくなる。
彼が手にしていた浅打が、バシャンと音を立てて水の中に落ちた。
そして山本の手に、彼の斬魂刀である時雨金時がゆらりと現れる。
異変を感じた咲は恐る恐る山本を振り返る。
そして彼の青ざめた顔を見て、目を見開いた。
「村正の攻撃範囲よりも遠くに置いておいたはず……」
これから起こる最悪の事態を予期した山本は、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「俺の力が強くなっていないとでも思っていたのか、愚か者め」
響河が罵声を浴びせる。
「おやめください、響河殿!!」
悲鳴を上げる咲に山本の刃が襲いかかる。
「ここから離れろ!!
銀嶺隊長にこの事を伝えろ!!!
急げ!!!」
山本が必死の形相で叫び、隠れていた隊士達が一斉に逃げる。
咲は刃をかわしながら、必死にどうすればいいのかを考える。
刀を両手で持った構えに、慌てて大きく飛び上がる。
鋭い突きが咲の脇腹をかすめた。
「一の型 車軸の雨……」
思わず顔をしかめる。
彼の剣の才能は護挺でも指折りであった。
天才と呼ばれるにふさわしい才と、努力を重ねていた。
咲が避けきれないほどの剣戟を容易く繰り出すのは、元字塾でも鮫島意外では彼くらいだ。
「解放しろ」
山本が唸るように言った。
咲は同じく顔を歪め、そして、首を振る。
「愚かな。
俺の力に解放せずにお前が立ち向かえると思うのか」
響河が嘲笑う、そして叫んだ。
「殺せ!!!」
声に従うように、山本が刀を振り上げ、咲は必死に瞬歩で逃げる。
「卯ノ花ッ!!!」
その声に慌てて身をかがめれば、山本の鋭い突きが咲の毛先をかすめ、数本の黒髪が宙に舞う。
突きだされた刀がそのまま振り下ろされ、慌てて転がる様にして避けるが、腕を切られてしまう。
だが気にする間もなく飛び上がる。
着物が水を吸い体に張り付くことも、髪が頬に張り付いて気持ち悪いことも、気にならないほど事態は逼迫していた。
すぐ後ろに天才の刃は迫っているのだ。
刃を避けるのに集中しなければならず、鬼道を発する余裕すらない。
「馬鹿!!
何やってんだ!
早く解放しねぇと二人とも犬死にだぞ!」
山本の罵声に、咲は
そして大きく飛び上がって山本から距離を開け、唱える。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠ッ!!!」
「そうだ、それでいい」
響河の楽しげな声が耳に届く。
すぐに山本が咲の懐に飛び込み鋭い斬撃で突き上げる。
「八の型 篠突く雨……」
頬から一筋の血が流れる。
それをぬぐうことなく、咲は山本をじっと見据えた。
目で追うことさえ難しい見事な剣戟だ。
「殺す気で来い」
山本が咲を睨みつける。
咲は歯を噛み締め、刀を握り締めた。
なんとか銀嶺か総隊長が来るまで持ち堪える覚悟だった。
だが彼の才能にどれ程自分がついていけるか、その自信など無かった。
着地した山本に向け、咲が瞬歩で接近し刀を振り上げるが山本は刀で水を巻き上げて姿を隠して攻撃をかわした。
「二の型 逆巻く雨……」
気配に振り返れば繰り出された中斬りに大きく飛び退がり、山本の次の技を抑えるために咄嗟に鬼道を放つ。
「破道の一 衝!」
咲のはなった衝は、山本が右手から左手へと持ち替えつつあった山本の斬魂刀時雨金時の柄にあたり、落下させることに成功した。
ところが落ちた刀を山本の足が蹴り、咲の心臓へと一直線に飛んでくる。
「避けろ!!!」
山本の悲鳴と、嫌な音が同時にあたりに響いた。
咲が水中に膝をついて着地し、続いてよろめき手をつく水音が響く。
彼女の周りの血が紅く染まり続ける。
逆巻く雨で巻き上げられた水の落ちる音の間で、激しい呼吸が繰り返される。
「中斬りを放ちながら刀を素早く持ち替え、相手の守りのタイミングを狂わせる変幻自在の斬撃を放つ、五の型 五月雨、か。
卯ノ花、それを見きったのは褒めてやろう。
だが裏目に出たようだな。
刀を手以外で操る奇襲技は、三の型 遣らずの雨……だったか」
木の上で響河が楽しげに嗤った。
咲が滲む目を瞑る。
なんとか落ち着けようとする吐息は震えていた。
立ちあがろうと体を立て直す彼女に歩み寄り、肩を貫く時雨金時を容赦なく山本が引き抜く。
「……ぁッ!!」
咲の身体はその反動で激しくよろめいたが、何とか倒れることは防ぐ。
返り血を浴びた山本が顔をゆがめる。
頬についた血をぬぐいたくても、身体は言うことをきかない。
山本は目を細め、歯を噛みしめながら、声を絞り出す。
「立てッ……!」
咲は俯いたまま動かない。
思いに反して、山本の腕は時雨金時を高く掲げた。
「馬鹿!!立て卯ノ花!
逃げろッ!!!」
山本の叫びが、虚しく響く。
こんな時に、咲はしばらく前の事を思い出していた。
こんな時だからこそ、とも言えるかもしれない。
響河の牢の前で倒れ伏した時のことだ。
気づけば咲はぼんやりと寝転んで空を見上げていた。
真っ暗なそこは、見覚えがあった。
(精神世界……だ)
身体を起こすと、鏡が3枚、目に入った。
一枚は山上の姿をした
もう一枚は日野で、さらにもう一枚の方にも、見知った姿がある。
咲は驚いて駆け寄った。
「……志波、殿……?
一体どうしてここに!?」
ガラス越しに志波が微笑んでいる。
しかしその目は金色だ。
「破涙贄遠……なのか?」
ーどちらでもある、と答えておこうかー
「どういうことです?」
混乱する咲に、志波は頭を振る。
確か日野も同じようなことを言っていたと思いだす。
彼を殺したのは響河であることは、説明を聞かずとも想像できた。
志波はどんな思いをして死んだのだろうか。
響河は腹心の部下を殺し罪を深めて、何を感じたのだろうか。
もし逆に響河を殺してでも志波が彼を止めたとして、何が起きただろう。
志波が罪人として処罰されたろうか。
自分が山本に殺されたら、何が起きるだろうか。
自分が山本を殺したら、何が起きるだろうか。
究極の疑問を見透かすような、哀しげな視線を志波は咲に向け、そして日野と同じように刀を差しだした。
燃えるように赤い房飾りが付いた刀を。
ー強くなれ、卯ノ花ー
戸惑いながらも咲はそれを受け取った。
彼に強くなると誓ってまだそれほど経っていないはずなのに、ひどく昔のことに感じた。
ー響河殿を、頼むー
咲は唇を噛み締め彼の瞳を見つめ、ひとつ、頷いた。
