友達。
帰り道、亜莉亜は先程の出来事を、頭の中で振り返っていた。
夜一に喜助。
その名前を思い出すだけで、楽しくなってくる。
早く誰かに話したい。
その一心で、亜莉亜の足取りは早くなる。
そのときだった。
ドンッ
突然現れた誰かにぶつかり、亜莉亜はよろける。
思わず尻餅を付き添うになるが、その誰かが支えてくれたようで、衝撃は来なかった。
拓「亜莉亜ごめん、大丈夫！？」
『うぅ、瞬歩でぶつかるの禁止だから』
拓「……ごめん」
苦い顔で謝罪する拓斗は、そんなに急いで何をしているのだろう。
『仕方ないなぁ。次やったら、許さないからね。』
拓「亜莉亜ありがと！……そういえば、なんか今日機嫌良いね。何か良いことあった？」

『それがね──』
そう亜莉亜が言いかけたそのとき、遠くから地響きが近づいてきた。
「うぉぉおお、拓斗様ぁぁああ！！！」
拓「ひっ、来た！！ごめん、その話はまた今度聞かせてね。じゃっ」
シュッ
拓斗は瞬歩を使い、その場から姿を消してしまった。
『……』
それから数秒も経たないうちに、地響きの原因となっていた人物が亜莉亜の前へと到着した。
「…はぁ、はぁ……」
『文月（フヅキ）さん、いつもお疲れさまです。』
亜莉亜はこの人物に丁寧に挨拶をする。
文「あ、あぁ。神影様。いつも拓斗様がご迷惑をお掛けして」
亜莉亜に向かって頭を下げる中年男性。
実はこの人、我妻家の教育係だったりするのだ。
『また拓斗が逃げているのですか？』
文「そうなのです。斬挙走鬼全てを指導し直して欲しいとお願いされましたので、まずは歩法、と思ったのですが。」
『つまらない、と、ですか？』
文月が頷く。
文「ですが、拓斗様の瞬歩に私のような者が追い付けるはずもなく…」
肩を落とす文月。
文「こうしてはいられない！一刻も早く拓斗様を連れ戻さなければ！」
それでは、また！
そういって、文月は物凄い形相で拓斗の後を追い始めた。
残された亜莉亜は、何も無かったかのように、また足を進め始めた。
そう珍しいことじゃないのだ。
拓斗が逃げ出し、文月が追うという状況は。
拓斗が真面目に修行をするなんてことは、滅多に無い。
というより、真面目にしたことが一度もないのだ。
それでも、いざ剣を持たせると、持ち前のセンスで見事な動きを見せる。
『天才、かぁ』
羨ましい限りだと思う。
そんなことを考えていると、拓斗に初めて会ったときのことが思い出されてきた。