セピア色のメモリー
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風「良い面構え、だな」
亜莉亜ははっとして、風兎の顔を見た。
斬魄刀の切っ先は、風兎のすぐ目の前で静止している。
風「こんだけできれば、合格だ」
『……え?』
思考が追い付かない。
合格?
風「卒業試験、みたいなもんだよ」
『は?』
風「今の試合が」
風兎はくぐもった笑い声を上げている。
亜莉亜はただ立ち尽くすしかない。
風「全く、面白い顔してんなぁ」
『で、ですが!』
思い返せば、こちらに来てまだ数十日もたっていない。
それだけの時間で、一体何が学べるというのだろう。
どれだけ強くなれるというのだろう。
亜莉亜は不満げに声を上げる。
風「師匠より弟子が強くなっちまったら、師匠と弟子の関係はもう仕舞いだろ?」
『私は、何も変わってないから』
声を絞り出す。
しかし、神妙な顔の亜莉亜に対して、風兎の余裕は崩れない。
風「なーに弱気なこと言ってんだ。正直に言えば、お前はここに来た時点で、十分に実力はあったんだ。足りないのは心の持ちようさ」
『心の、持ちよう』
風「自信を持て。自分は強いだとか、よく鍛錬してるとか、そういう意味じゃねえ。誰にも負けない、取り入る隙を与えない、そんな揺るぎない心を持てってことだ」
亜莉亜の青い瞳は、しっかりと風兎に向けられている。
風「強いやつってのはそんなもんさ。決して弱音を吐かず、乱されることがない。そして、どんな不利な状況でも、その自信を忘れない。──俺の師匠も、そんな人だった」
ふと寂し気な顔をして、風兎は目をふせた。
『その方に、会ってみたかった、です』
そっと、亜莉亜は言う。
風兎は寂しげな目を亜莉亜に向け、微笑んだ。
風「あんなに格好いい人、俺は一生忘れはしねぇよ。お前も、そんな風に立派な人になれ。亜莉亜、お前なら、なれるんだ。な?」
少し乱暴な仕草で、風兎は亜莉亜の頭を撫でる。
しばらくして、亜莉亜は顔を上げた。
『──ありがとうございました、師匠』
その顔に、不安の色はもう無い。
そのことに風兎は安堵し、同時に肩が軽くなるのを感じていた。
風「向こうに戻るのに良い場所がある。明日そこまで案内してやるから、今日は荷物をまとめてもう休め。分かったか?」
『はい』
強い意志を胸に、亜莉亜は返事をした。
その背後に黒い影が迫っていることにも気づかず──
荷物をまとめろと言われたって。
尸魂界を出るときに、持ってきた荷物はほんの数えるほど。
何も考えずに、こちらに来たのだ。
そう、まとめるほどもない。
かといって特にすることもないので、闇鬼の手入れをするか。
亜莉亜は腰から闇鬼を鞘ごと抜き取り、静かに横たえる。
これの手入れは手慣れたものである。
物心ついたときには既に持っていたから。
今なら、目を瞑ってでも完璧に手入れできるのではないだろうか。
そんなことを考えながらも、虚圏に来てからの日々が頭の中を浮遊している。
もっと長く留まって修業をするものだとばかり考えていた。
長く修業を積まねば、少しも強くなれないものとばかり考えていた。
けれど、最初に師匠に会って剣を交えたときの感覚と、先ほどの試合での感覚を比べてみれば、鍛錬の時間だけが全てではないことが分かる。
冷静に見据える目、確固たる意志。
そう、上に立つ者とは、そういうもの。
立派な隊長になろう。
いや、それだけじゃ今までと何も変わらない。
『私は、隊長』
唇を僅かに震わせ、声に出す。
大丈夫、やれる。
しっかりと息を吸う。
どこからきたのか、少しだけ甘い匂いがした。
『私は、隊長』
そう、立派な隊長。
整った呼吸が、ふわりと意識を包み、落ち着かせる。
意識が宙に浮き、自分の中にいるのは自分だけ。
安堵しながら、亜莉亜は静かに意識を手放した。
亜莉亜ははっとして、風兎の顔を見た。
斬魄刀の切っ先は、風兎のすぐ目の前で静止している。
風「こんだけできれば、合格だ」
『……え?』
思考が追い付かない。
合格?
風「卒業試験、みたいなもんだよ」
『は?』
風「今の試合が」
風兎はくぐもった笑い声を上げている。
亜莉亜はただ立ち尽くすしかない。
風「全く、面白い顔してんなぁ」
『で、ですが!』
思い返せば、こちらに来てまだ数十日もたっていない。
それだけの時間で、一体何が学べるというのだろう。
どれだけ強くなれるというのだろう。
亜莉亜は不満げに声を上げる。
風「師匠より弟子が強くなっちまったら、師匠と弟子の関係はもう仕舞いだろ?」
『私は、何も変わってないから』
声を絞り出す。
しかし、神妙な顔の亜莉亜に対して、風兎の余裕は崩れない。
風「なーに弱気なこと言ってんだ。正直に言えば、お前はここに来た時点で、十分に実力はあったんだ。足りないのは心の持ちようさ」
『心の、持ちよう』
風「自信を持て。自分は強いだとか、よく鍛錬してるとか、そういう意味じゃねえ。誰にも負けない、取り入る隙を与えない、そんな揺るぎない心を持てってことだ」
亜莉亜の青い瞳は、しっかりと風兎に向けられている。
風「強いやつってのはそんなもんさ。決して弱音を吐かず、乱されることがない。そして、どんな不利な状況でも、その自信を忘れない。──俺の師匠も、そんな人だった」
ふと寂し気な顔をして、風兎は目をふせた。
『その方に、会ってみたかった、です』
そっと、亜莉亜は言う。
風兎は寂しげな目を亜莉亜に向け、微笑んだ。
風「あんなに格好いい人、俺は一生忘れはしねぇよ。お前も、そんな風に立派な人になれ。亜莉亜、お前なら、なれるんだ。な?」
少し乱暴な仕草で、風兎は亜莉亜の頭を撫でる。
しばらくして、亜莉亜は顔を上げた。
『──ありがとうございました、師匠』
その顔に、不安の色はもう無い。
そのことに風兎は安堵し、同時に肩が軽くなるのを感じていた。
風「向こうに戻るのに良い場所がある。明日そこまで案内してやるから、今日は荷物をまとめてもう休め。分かったか?」
『はい』
強い意志を胸に、亜莉亜は返事をした。
その背後に黒い影が迫っていることにも気づかず──
荷物をまとめろと言われたって。
尸魂界を出るときに、持ってきた荷物はほんの数えるほど。
何も考えずに、こちらに来たのだ。
そう、まとめるほどもない。
かといって特にすることもないので、闇鬼の手入れをするか。
亜莉亜は腰から闇鬼を鞘ごと抜き取り、静かに横たえる。
これの手入れは手慣れたものである。
物心ついたときには既に持っていたから。
今なら、目を瞑ってでも完璧に手入れできるのではないだろうか。
そんなことを考えながらも、虚圏に来てからの日々が頭の中を浮遊している。
もっと長く留まって修業をするものだとばかり考えていた。
長く修業を積まねば、少しも強くなれないものとばかり考えていた。
けれど、最初に師匠に会って剣を交えたときの感覚と、先ほどの試合での感覚を比べてみれば、鍛錬の時間だけが全てではないことが分かる。
冷静に見据える目、確固たる意志。
そう、上に立つ者とは、そういうもの。
立派な隊長になろう。
いや、それだけじゃ今までと何も変わらない。
『私は、隊長』
唇を僅かに震わせ、声に出す。
大丈夫、やれる。
しっかりと息を吸う。
どこからきたのか、少しだけ甘い匂いがした。
『私は、隊長』
そう、立派な隊長。
整った呼吸が、ふわりと意識を包み、落ち着かせる。
意識が宙に浮き、自分の中にいるのは自分だけ。
安堵しながら、亜莉亜は静かに意識を手放した。