セピア色のメモリー
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「文月!文月はどこです?」
我妻邸ではこんな声がよく聞こえてくる。
呼んでいるのは、当主である我妻真娑斗様の奥様、我妻秋江様で──つまりは、拓斗様の母上様である。
秋江様は元々上流貴族のご出身であり、貴族としての誇りを大切に守っていらっしゃる──
秋「文月!いないのですか?早く返事を。」
おっと、あまりゆっくりと説明をする時間は無いようです。
文「は、はい!文月はここでございます!」
大きく返事をすれば、既に奥様は目の前にいらっしゃった。
相変わらず、腰につきそうな程の長い茶髪が印象的である。
秋「文月、少々返事が遅いのでは?」
文「申し訳ございません、奥様。ところで何か、私に御用でしょうか?」
秋「何か、ではないでしょう。拓斗がいないようですが、何処にいるんです?」
文「拓斗様でしたら、王属特務の隊舎の方におられる筈ですが。」
私がそうお答えすれば、秋江様の顔は真っ赤になった。
秋「またですか!?」
文「まだ、亜莉亜様がいなくなられたことを受け入れられないのでしょう。」
フォローするつもりで申し上げたのに、秋江様は更にお怒りになったようだ。
秋「あんな下品女に”様”なんてつけるものじゃありません!文月、さっさと拓斗を連れ戻しなさい!」
文「申し訳ございません!た、只今!」
そう申し上げて、その場を急いで離れる。
すっかり忘れていた。
秋江様は、亜莉亜様の事をあまり良く思われていないのだ。
拓斗様が亜莉亜様に夢中になればなる程、秋江様は亜莉亜様の事を悪く言い、そのせいで拓斗様との関係も悪くなられてしまった。
拓斗様が本当に小さかったときは、拓斗様は秋江様から離れようとせず、秋江様も今よりずっと穏やかでお優しい方だった。
年長者として言わせてもらえば、ただ秋江様は亜莉亜様に嫉妬しておられるのだろう。
目に入れても痛くない愛しの息子が、自分以外の女性に取られること──それに、納得できないのである。
しかし、特に最近の秋江様は、何というか、少々過激なのだ。
拓斗様は亜莉亜様がいなくなり、落ち込んでいらっしゃるというのに、拓斗様にかける言葉はえげつなく思われるものばかり。
秋江様も、もう少し子離れなされても良いだろうに。
──とにかく、今は拓斗様が心配である。秋江様には申し訳ないが、連れ戻すかどうかは別として、拓斗様の様子を見に行こう。
そう思い、仕度を終えてすぐに我妻邸を出発する。
やはり、拓斗様は王属特務の隊舎にいらっしゃった。
けれど、私はすぐに声をおかけすることができなかった。
拓斗様は縁側に腰掛け、庭の方をぼんやりと見ていた。──まるで、亜莉亜様が鍛錬なさっているのを見ているかのように。
その目があまりに虚ろで、不安げで、頼りない。
何とも痛ましいお姿に、私は声が出なかった。
そうしていると、私の視線にお気づきになったのか、拓斗様がこちらを見て僅かに微笑んだ。
拓「何してるの、そんなとこで。」
文「も、申し訳ございません。あの……」
何と言えば良いのか分からず、口ごもる。
適当な言い訳も思い浮かばない。
拓「あぁ、母様か。ねえ、そうでしょ?」
文「……秋江様が、拓斗様を探しておられました。早く我妻邸に連れ戻すように、と。」
そうお答えすると、拓斗様は気だるそうに立ち上がった。
文「拓斗様?」
拓「帰るよ、家に。」
文「宜しいのですか?」
そう確認すれば、拓斗様は力なく私に目を向けた。
拓「だって、帰らないと、文月が怒られちゃうから。」
文「!──拓斗様は、お優しいですな。」
拓「ううん、そんなことないよ。」
拓斗様はそう言葉を吐き出すと、目を伏せた。
その表情が妙に大人びていて、私は驚いた。
本当に小さい頃から拓斗様の様子は見てきているけれど、こんな憂いの浮かぶ顔は見たことが無かった。
こんな状況で不謹慎だとは思うけれど、「あぁ、拓斗様も、もう子供ではないのか」と、少し嬉しくなった。
亜莉亜様のことはあるけれど、我妻家の時期当主は成長されている。
我妻邸ではこんな声がよく聞こえてくる。
呼んでいるのは、当主である我妻真娑斗様の奥様、我妻秋江様で──つまりは、拓斗様の母上様である。
秋江様は元々上流貴族のご出身であり、貴族としての誇りを大切に守っていらっしゃる──
秋「文月!いないのですか?早く返事を。」
おっと、あまりゆっくりと説明をする時間は無いようです。
文「は、はい!文月はここでございます!」
大きく返事をすれば、既に奥様は目の前にいらっしゃった。
相変わらず、腰につきそうな程の長い茶髪が印象的である。
秋「文月、少々返事が遅いのでは?」
文「申し訳ございません、奥様。ところで何か、私に御用でしょうか?」
秋「何か、ではないでしょう。拓斗がいないようですが、何処にいるんです?」
文「拓斗様でしたら、王属特務の隊舎の方におられる筈ですが。」
私がそうお答えすれば、秋江様の顔は真っ赤になった。
秋「またですか!?」
文「まだ、亜莉亜様がいなくなられたことを受け入れられないのでしょう。」
フォローするつもりで申し上げたのに、秋江様は更にお怒りになったようだ。
秋「あんな下品女に”様”なんてつけるものじゃありません!文月、さっさと拓斗を連れ戻しなさい!」
文「申し訳ございません!た、只今!」
そう申し上げて、その場を急いで離れる。
すっかり忘れていた。
秋江様は、亜莉亜様の事をあまり良く思われていないのだ。
拓斗様が亜莉亜様に夢中になればなる程、秋江様は亜莉亜様の事を悪く言い、そのせいで拓斗様との関係も悪くなられてしまった。
拓斗様が本当に小さかったときは、拓斗様は秋江様から離れようとせず、秋江様も今よりずっと穏やかでお優しい方だった。
年長者として言わせてもらえば、ただ秋江様は亜莉亜様に嫉妬しておられるのだろう。
目に入れても痛くない愛しの息子が、自分以外の女性に取られること──それに、納得できないのである。
しかし、特に最近の秋江様は、何というか、少々過激なのだ。
拓斗様は亜莉亜様がいなくなり、落ち込んでいらっしゃるというのに、拓斗様にかける言葉はえげつなく思われるものばかり。
秋江様も、もう少し子離れなされても良いだろうに。
──とにかく、今は拓斗様が心配である。秋江様には申し訳ないが、連れ戻すかどうかは別として、拓斗様の様子を見に行こう。
そう思い、仕度を終えてすぐに我妻邸を出発する。
やはり、拓斗様は王属特務の隊舎にいらっしゃった。
けれど、私はすぐに声をおかけすることができなかった。
拓斗様は縁側に腰掛け、庭の方をぼんやりと見ていた。──まるで、亜莉亜様が鍛錬なさっているのを見ているかのように。
その目があまりに虚ろで、不安げで、頼りない。
何とも痛ましいお姿に、私は声が出なかった。
そうしていると、私の視線にお気づきになったのか、拓斗様がこちらを見て僅かに微笑んだ。
拓「何してるの、そんなとこで。」
文「も、申し訳ございません。あの……」
何と言えば良いのか分からず、口ごもる。
適当な言い訳も思い浮かばない。
拓「あぁ、母様か。ねえ、そうでしょ?」
文「……秋江様が、拓斗様を探しておられました。早く我妻邸に連れ戻すように、と。」
そうお答えすると、拓斗様は気だるそうに立ち上がった。
文「拓斗様?」
拓「帰るよ、家に。」
文「宜しいのですか?」
そう確認すれば、拓斗様は力なく私に目を向けた。
拓「だって、帰らないと、文月が怒られちゃうから。」
文「!──拓斗様は、お優しいですな。」
拓「ううん、そんなことないよ。」
拓斗様はそう言葉を吐き出すと、目を伏せた。
その表情が妙に大人びていて、私は驚いた。
本当に小さい頃から拓斗様の様子は見てきているけれど、こんな憂いの浮かぶ顔は見たことが無かった。
こんな状況で不謹慎だとは思うけれど、「あぁ、拓斗様も、もう子供ではないのか」と、少し嬉しくなった。
亜莉亜様のことはあるけれど、我妻家の時期当主は成長されている。