龍「…姉貴、ありがとう。」
龍は少し落ち着いたようだった。
そんな様子の龍を見て、乱菊はフッと表情を緩めた。
乱「いつでも遊びに来ていいのよ、龍。あたしはあんたの姉なんだから。だから、絶対に一人で抱え込まないのよ。分かった？」
龍「分かった、姉貴。」
そう言うと、龍はにかっと笑った。
冬「――松本」
ふいに冬獅郎が乱菊を呼んだ。
乱「何ですか、隊長。」
きょとんとした顔で乱菊が振り返る。
冬「零番隊にある書類、全部ここに持って来い。」
冬獅郎はそう言うと、目をそらした。
乱「隊長…まさか！」
冬「書類さえ片付けば、少しは余裕できるだろ。」
乱「隊長…ありがとうございます！！すぐにとってきます。ほら、龍、行くわよ！」
乱菊は龍の手をとると、十番隊を飛び出した。
冬「忙しくなりそうだな…また。」
冬獅郎はそう言葉を漏らすと、筆に墨を含ませ、サラサラと書類に滑らせていった。


『信厳寺先生、できました。』
亜莉亜、いや刹羅は、そっと筆を置くと、数枚の紙を持って信厳寺の前までまで進んだ。
教室中の視線がその動作に注目する。
「ちょっと…早すぎじゃない？」
「カンニングしたんじゃねえか？まだ入って一週間も経ってないのに、あれはあんまりだ。」
「そうだよね、絶対おかしい！」
数人の生徒がコソコソと陰口を言う。
彼らの机の上には、そろって、鬼道の詠唱に関する問題が書かれた紙が置いてあった。
そう、つまり、刹羅と瑚絽音の属する第一組は現在テストの真っ只中である。
『採点、お願いします。』
刹羅はそう言うと、信厳寺に紙を突き出した。
信厳寺は心底嫌そうな表情を浮かべながら、紙を乱暴に受け取る。
しかし、何か良いことを思いついたのか、その表情は意地悪な笑みへと変わった。
信「お前は余裕そうだから、一つでも間違いがあれば罰を与えて構わないな？」
『どうぞ。』
即答すると、刹羅はさっさと自分の席に戻った。
周りからの視線が痛いが、慣れたもの。
しばらくすると、隣の席に座る男子生徒が刹羅の肩をつついた。
『…何か？』
今にも面倒くさいと言いそうな目で、男子生徒を見る。
男子生徒は何も言わず、ただ四つ折りにされた刹羅に押し付けた。
刹羅は気だるそうにその紙を受け取り、机の陰でそれを開いた。