独特の緊張感が高まる中、高く挙げられた藤山の手が、スッと下ろされた。
試合開始の合図だ。
しかし、両者とも一向に動く気配はない。
『どうぞ…？』
亜莉亜は挑発的な視線を吉田に向けるが、吉田は微塵も動こうとしない。
その表情には、獰猛な動物に標的にされた無力な動物のような、そんな恐怖と焦りが滲んでいた。
『来ないんですか？』
言ったほどもないな。
亜莉亜は内心、笑いが止まらなかった。
もちろん、外には決して出さないが。
目の前の真剣に怯えるか？
私の視線に怯えるか？
それとも…命がけの戦いは初めてか？
どれにしても、しょうもない奴だ。
これなら、筆記試験は必要なさそうだな。
『来ないなら、こっちから…行きますよ。』
亜莉亜は一瞬だけ不敵な表情を覗かせると、一気に踏み出した。
吉田の表情が強張る。
キィンッ！！
吉「うっ…！」
咄嗟に突き出した吉田の刀が、ギリギリで亜莉亜の純白の刃を受け止め、横に流した。
『もう一回。受け止められますか？』
ヒュッ
亜莉亜の刀が風を切った。
勝負は、一瞬で決まった。
『降参、して下さいますよね。』
研ぎ澄まされた切っ先は、今にも吉田の眉間を捕えようとしている。
吉「…」
教員としてのプライドがあるのか、吉田は悔しそうに口を閉ざしている。
『降参して頂けなければ、貴方にはこれの餌になってもらわないといけない。』
亜莉亜は斬魄刀に視線を滑らせた。
脈打っている。
今にも”赤”が欲しいと。
『どうします？』
吉「――降参、だ、青年。君は思った以上に広い世界を見ていたようだ。」
吉田は刀を地に下ろし、両手を上げ、諦めたように息をついた。
『分かっていただけたらいいんです。』
亜莉亜は満足そうに口角を上げると、すんなりと刀を下ろし、鞘へと納めた。
少々中身が暴れている気もするが、どうしようもない。
奴は狂ってる。
今出すと、確実に面倒なことになる。