拓「そんなことくらい、分かってるよ！」
拓斗は声を張り上げた。
辺りで作業をしていた死神たちが、驚いて顔を上げる。
拓「あ…いや、気にしないで作業を続けてくれる？」
そう言えば、隊士たちはおずおずと作業を再開し始める。
拓斗はふうっと息をつくと、困ったように笑った。
拓「俺の事は心配いらないよ。俺は俺なりに考えがあるんだから。それよりも、自分の隊の副隊長さんについてでも心配した方がいいんじゃない？彼女また逃走してるみたいだけど。冬獅郎君。」
《冬獅郎君》
拓斗がそう言った瞬間、辺りの体感温度が数度ほど下がった。
冬「我妻、てめぇなぁ…この前まで日番谷隊長って呼べてたのが、何でまた名前で読んでやがる！日番谷隊長だ、日・番・谷・隊・長！！」
拓「やだなぁ、冬獅郎。元はこう呼んでたでしょ？変えたんじゃない。戻っただけ。」
拓斗はケラケラと笑った。
その時だけは、ブラウンの瞳が、かつての様にキラキラと輝いていた。
拓「さぁ、作業の続き続き。隊長格が無駄話だなんて、笑われちゃうからね。」
冬獅郎は、眉間の皺をいつもより深くしたまま、渋々と遺体に触れた。
拓「あ、霊圧なら、少しも残ってなかったよ。」
拓斗は冬獅郎の背に声をかけた。
冬「もう調べたのか。流石に手が早いな。」
拓「零番隊隊長補佐を甘く見ないでよ？」
拓斗はそう言って冬獅郎が見ている遺体にそっと触れた。
拓「ッ！？」
拓斗の肩がびくりと揺れた。
冬「我妻？」
拓「…いや、何でもないよ。」
そう口では答えてみるものの、その表情は強ばったままだ。
冬「何があった。話してみろ。」
拓「いいから、放っておいてよ！！」
拓斗がそう叫ぶと、冬獅郎はただ驚いていた。
拓「しばらく、話しかけないでくれる？」
拓斗は冷たい声でそう言った。
…言えるわけないじゃん。
殺された隊士の傷から、亜莉亜の霊圧を感じた気がしたなんて。
気のせいだとは分かってるけど…それなら、俺は心の隅では亜莉亜を疑ってるっていうの？
そんなこと、ありえない。
情けないよ、こんな俺が…