ナ「そんなもん、知らねぇよ。」
『そうか…』
ナ「――けど。」
『…？』
亜莉亜は目線を上げナスティーの顔を、次の言葉を待った。
ナ「教主様…そう呼ばれてた。」
『教主、様？』
怪訝な表情を浮かべ、亜莉亜は目を細めた。
『まるで、どこかの宗教みたいな呼び方だな。科学者なんじゃなかったのか？』
科学者が宗教をやるとは到底思えない。
あの涅マユリが聖書を読み、《神を信じなさい》とでも言うようなものだ。
想像すら容易ではない。
ナ「知らねぇよ！…もういいだろ、俺を離せ。」
ナスティーはキッと亜莉亜を睨み付けた。
『まだだ。私はまだ貴様に用がある。』
ナ「なら、さっさと済ませろ！」
『だったら、いちいち口を挟むな。話が進まない。』
亜莉亜が呆れ顔でそう言えば、ナスティーは悔しそうに口を閉じる。
『質問を続ける。貴様は完全体か。』
ナ「…失敗作だ。そう奴に言われた。」
『成程。どうりで、傷の再生が少しも出来ないわけだ。…次、向こうには貴様のような奴がどれくらいいる。知っている情報を全て話せ。』
亜莉亜はナスティーの目をじっと見つめた。
ナ「俺しか、いない。」
平然と答えたように見えたナスティーだったが、亜莉亜は眉を寄せ、静かに息をついた。
ナ「な、何だよ。」
『あまり手荒なことはしたくなかったのだがな…。仕方ない。――瑚絽音。』
瑚「は、はいなのです！」
亜莉亜たちから少し離れた場所で二人のやり取りを聞いていた瑚絽音は、突然名前を呼ばれ、少し上ずった声で返事をした。
亜莉亜はその声を背中で受けると、小さく口を開いた。
『目を瞑って、耳も塞げ。もちろん瞬もだ。』
瑚「へ…？」
『いいから、言う通りにしろ。私が良いと言うまで、決して目を開けるな。』
瑚「分かったのです…。」
瑚絽音は自分と瞬の耳を塞ぎ、目をしっかりと瞑った。