嫌な雨だ。
亜莉亜は小窓から外を見た。
灰色の雲は、まるで泣いているかのように大量の雨を降らせていた。
霊王に裏切られた《あの日》もそう、こんな雨が降っていた。
また、何か起こるかもしれない。
そんな気がして、少し不安になった。
瑚「亜莉亜…？」
瞬の相手をしていたはずの瑚絽音が私の顔を覗き込んだ。
私は、何でもないと言って無理に笑った。
『…修業、行ってくる。』
そう言って闇鬼を片手に立ち上がれば、瑚絽音は驚いている。
瑚「亜莉亜、雨降ってるですよ？濡れちゃうのです。」
『雨なんて…気にしていられるか。』
それは確かに、本音だった。
雨が不吉だなんて、もう考えたくもない。
忘れていたかった。
雨と共に訪れる多くの悲劇を…。
瑚「あ、夕方までには帰ってくるのですよー！」
無言で扉を開け外に出ようとする亜莉亜の背中に、瑚絽音は呼び掛けた。
亜莉亜はわずかに振り返ると、軽く返事をして雨の中に出ていった。

徐々に湿る体をよそに、ひたすら亜莉亜は刀を振るう。
濡れた髪が雨粒を振り散らし、亜莉亜の頬を一粒の雨が滑り落ちた。
ズサリ
亜莉亜は無表情で闇鬼をぬかるんだ地面に突き刺した。
暗い瞳が闇鬼を一瞥する。
ため息をつくと、亜莉亜は両手で手際よく髪を結った。
高い位置で一つに結われた髪がゆらゆらと揺れる。
亜莉亜は闇鬼に手をのばし再び修業を再開しようとしたが、その手は闇鬼のすぐ手前で停止した。
『私は…まだ闇鬼を握る資格があるのだろうか。』
力なく放った言葉に返事は返ってこない。
卍解を発動させて以来、一切の会話を拒否し続ける闇鬼。
約束を守れない私に嫌気がさしたか？
それとも、私に霊圧が無いから、触れることさえも許さないのか？
『…闇鬼、ごめんな。』
亜莉亜は地面に真っ直ぐ突き刺された闇鬼の前にかがみ、悲しげに言った。