静寂の中、キーボードを一心不乱に叩く音が響く。
暗く広い部屋の片隅には、何に使うのか分からないような実験器具が立ち並び、その中心には不気味な光を放つ巨大な液晶があった。
カタカタ…。
ふいにキーボードを叩く音が止まった。
そして、液晶に映し出された大量の文字や数字を見て、キーボードを叩いていた男はニヤリと口角を上げた。


マ「これはどういうことだネ、阿近！？昨日最後にここを出たのはお前だっただろう！」
爽やかな朝日にそぐわないピリピリと張りつめた不穏な空気が、技術開発局に流れる。
阿「鍵はちゃんと掛けた筈なんですけどね…」
そう言って阿近はマユリから目をそらした。
マ「お前もだ、ネム！！何故侵入者に気づけなかったのかネ！」
ネ「申し訳ありません、マユリ様。」
マ「ッたく！どいつもこいつも…！」
マユリは自分専用のコンピューターの前に座ると、鍵盤型のキーボードをものすごい速さで叩き始めた。
目まぐるしく移り変わる文字を見て、目を細める。
マ「…総隊長に事の次第を話しに行くヨ。阿近、ついてこい。」
マユリはそう言うと、静かに立ち上がった。


山「これより、隊首会を始める。事は重大である。心して聞くように。」
全隊長格が集まったのを見計らい、元柳斎は言った。
隊長たちの間に緊張がはしる。
山「涅隊長、説明を。」
マ「昨晩から今朝にかけての間に、何者かが技術開発局に侵入したんだヨ。」
マユリは心底嫌そうな声で言った。
マ「侵入者は私専用のコンピューターで技術開発局のデータベースに忍び込み、ある人物のデータを根こそぎ持っていった。それが誰のか分かるかネ？――なんと、あの神影亜莉亜のなんだヨ！」
拓「亜莉亜の！？」
亜莉亜の名に、拓斗は大きく反応した。
拓「亜莉亜のデータ…って、一体どういうこと！？」
マ「そのままの意味だヨ。彼女の体格や特長、能力や得意な戦法、霊圧に関する研究結果や霊子のサンプル、細かくいけば性格や口調、そういった全てのデータが丸ごと盗まれたということだヨ。」