そんなとき、一人の人物が拓斗の後ろに立った。
拓斗はその人物が誰か分かると、露骨に顔をしかめた。
拓「新炉…俺に何か用？」
新「あの、すみません…でした。」
気まずそうに謝る新炉。
拓斗は静かに振り返った。
その顔には、確かな怒りがにじみ出ていた。
拓「それで？」
新「…。」
拓「俺たちに刀を向けておいて、今更許してほしいと？」
新「それは…」
拓「二度も俺たちを裏切っておいて、それでもなお許してほしいと！？」
拓斗は勢いよく立ち上がった。
ついさっきまで座っていた椅子がガタガタと揺れる。
新炉は拓斗と目を合わせることができず、俯いた。
新「簡単に許してもらえるとは思ってません…けど…」
けど？
けど"許してほしい"？
俺はその言葉に、無意識のうちに新炉の胸ぐらをつかみ、力一杯ひねりあげていた。

拓「ふざけんな。」

冷たい声でそう言えば、新炉がヒッと息を飲んだ。
杏「副隊長！」
流石に危険だと思ったのか、杏樹が止めに入ろうとする。
しかし拓斗は、目で杏樹を制した。
今まで一度も見たことがないような拓斗の冷酷な表情に、杏樹は戸惑った。
拓「亜莉亜は一度自分たちを裏切った君らでさえ、大切に思ってた。心から信頼してた…。なのに君たちはまた裏切った。──もう、言い訳は聞かない」
新「…本当に、すみ」
拓「その言葉は聞き飽きた。君たちと俺ら、どちらが正しいかなんて、俺には分からないけど、俺は君らが、大、嫌い、だ」
新「…」
拓「分かったなら、さっさと出ていって。君の顔なんて、もう二度と見たくない。」
拓斗は乱暴に新炉をつかんでいた手を離した。
新炉は真っ青な顔で逃げていった。

龍「…ちょっとやり過ぎなんじゃね？」
立ちすくんでいる杏樹の代わりに、龍が拓斗を諫めた。
拓「俺に指図するの？」
しかし拓斗に睨まれ、龍は押し黙った。
拓「…少し、頭冷やしてくる。」
そう言って執務室を出ていった拓斗の後ろ姿を、席官たちは複雑な心境で見ていた。