廊下に出てふと振り返ると、数日間お世話になっていた牢が酷く陳腐な物に感じられた。
たかが数日間。
されど数日間。
何だか、自分はずっと前から牢に入れられていたような、そんな不思議な気持ちになった。
ふと、拓斗の視線は隣の牢に止まった。
拓「先輩、生きてます？」
冗談半分でそう呼び掛ける。
乃「…あったりめーだろ。俺は死ぬときは戦場でって決めてんだ。こんなとこでのたれ死んだりしねぇよ。」
いつも通りの声が聞こえてきて、拓斗は少しだけほっとしたような表情を見せた。
乃「坊主、出るんだろ？良かったな。」
拓「まぁね。」
乃「てめぇのしなきゃいけないこと、忘れんじゃねぇぞ。絶対に探しだして…支えてやれ。」
少しの沈黙。
"支えてやれ"
その意味が、拓斗にはよく理解できなかった。
拓「…あぁ。」
裏切られて傷付いた彼女を支えろってことか。
そんなの、決まってる。
拓「頼まれなくても、俺は亜莉亜を支えるよ。」
拓斗はクスリと笑うと、役人に先導されその場を後にした。
残された乃雅は一人、宙を見つめながら呟いた。
乃「坊主…違うぞ。」
あいつ…神影亜莉亜は卍解を使った。
それまでの経緯からすると、あの卍解には多大なリスクがあったはずだ。
軽くても、一時的な霊圧消失くらいはあったはず。
だが、卍解を解いたあとの霊圧推移からすると恐らく、今ごろ奴は、霊圧を完全に――

瑚「消失って…無くしちゃったってことですか！？」
『…』
うなだれる私。
私は意識を取り戻してすぐに、瑚絽音の質問攻めに合うことになった。
闇鬼に拒絶されたすぐ後は随分動揺してしまったが、今はだいぶ落ち着いた。
ただ、何だか心にぽっかりと穴が開いたような…そんな虚無感に私は包まれていた。
悲しくは…ない。
これは私が選んだ道なんだ。
そうだろ？
闇鬼。
…そうか、もう話さえ出来ないんだったな。
やっぱり闇鬼がいないのには慣れない。