乃「大したことは言ってねぇよ。…ただ、霊王はてめぇを殺そうとしてるって、そう教えてやっただけだ。」
乃雅はしれっと答えた。
拓「そっか。…結局それが現実になっちゃったってわけね。」
拓斗はそこまで言って、口を閉ざした。
亜莉亜…。
彼女があんなにも憎しみを露にしたところを、俺は今まで一度も見たことがなかった。
正直、ショックだった。
乃「…それはそうと、お前、これから一体どうする気だ？禁固100年って言われたろ？」
乃雅の問いに拓斗はパッと顔を上げた。
拓「刑期がこのままなら、俺は力ずくでもここを出て、亜莉亜を探しに行く。」
乃「そんなに簡単なことじゃねぇぞ？」
拓「分かってる。」
乃「捕まれば処刑だぞ？」
拓「構わない。亜莉亜に会えさえしたら。」
乃「…」
拓「…」
乃「…はぁ。やっぱ、惚れた女には弱いってってか？我妻の坊主。」
拓「五月蝿いよ、黒雷のじじい。」
サラリと落とされた爆弾発言。
乃「じッ…じじい！？な、ななななな何だと！！お、俺はまだ少年のように若いんだぜ！？この小童！」
拓「ほら、その言い方がじじいなんだって。」
乃「こ、この野郎ーッ！」
ガシャァン！
乃雅は再び檻を殴った。

「はぁ、はぁ…」
降りしきる雨の中、必死に走る人影。
高い位置で二つに結ったピンク色の髪が、ふわふわと揺れている。
「もうっ…こんなに雨が降るなんて…ッ…酷いのですっ…」
口から漏れた嘆きは、空しくも雨音にかき消される。
傘を持たない小さな体は、既にびしょびしょだ。
今更走って帰ったからどうというわけでもないが、これ以上雨に打たれていたくはなかった。
だから走っていた。
「あ…れ？」
ふと、道をふさぐ黒いものを見つけ、それに目が釘付けになる。
恐る恐る近寄ってみる。
「人…？あの…大丈夫ですか？」
黒いものはどうやら、倒れている、黒い着物を着た人だったようだ。
しかし、その人はピクリとも動かない。
少女は急に不安になった。
「し、しっかりして下さいなのです！」
冷たい雨の中、少女は必死に叫んだ。