第二十一話 ー差ー
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それは、たった一瞬でありながらも、永遠と錯覚するほど長い時間だった。
──橙色が割れて、散った。
拓斗が張った結界は、並みの死神が破れるような簡易的なものではなかった。
しかし、いとも簡単に割れてしまったのだ。
とある、”並みの死神”ではない、死神によって。
死神は、亜莉亜の斬魄刀を自らの斬魄刀で受け止め、軽々と払った。
警戒した亜莉亜は数歩後ずさり、二人の間には一定の距離が生まれる。
風さえも通らない空間で、緊張感だけが漂っている。
双方とも、何も語らず、ただ互いを見ている──まるで、品定めをしているかのように。
やがて、死神は首を捻り、地面に座り込む拓斗に目を向けた。
呆然としている拓斗の目が、はっと見開かれ、死神に釘付けになる。
死神の目は漆黒で、束ねられた長い黒髪が、すとんと地面に向かって垂れていた。
”亜莉亜”のものとは、似ても似つかなかった。
しかし、凛とした顔立ちと、真っ直ぐな瞳は、それこそ亜莉亜のものだった。
拓「亜莉亜……?」
目の前にいる二人の亜莉亜に動揺を隠せず、拓斗は尋ねる。
しかし、返事はなく、ただ視線をそらされてしまう。
そらした視線は、はっきりと”亜莉亜”に向けられていた。
『何してくれてんだ、てめぇは』
見た目からは想像もできないような低い声で、死神は──亜莉亜は言った。
「──ッ!」
偽の亜莉亜は悔しそうに唇をかみ、そして何かを考える素振りを見せた。
『知ってるぞ、お前は言わば、”私の複製”。私のデータを細かく入れられ、それに従い行動するだけの特殊な義骸──そうだろう?相当うまく作られたもんだと思ったが』
亜莉亜は目を細め、自身の偽者を睨んだ。
『思考や信念までは真似できなかったか、出来損ないめ』
静かに吐き出された言葉一つ一つが、重たく偽者の亜莉亜を責める。
「何だと──?」
偽亜莉亜の黒い刀──闇鬼が鈍く月明かりを弾く。
『私だったら──私だったら、こんなふうに死神を、仲間を……拓斗を、傷つけはしない──!』
ふいに冷たい風が亜莉亜の髪を大きく揺らした。
怒りの篭った亜莉亜の目が、薄暗い闇の中でも強い力を帯びている。
彼女の背後で、拓斗はそっと目を伏せた。
『なァ、誰がこんなことしろって言った?』
「それが私の意思なんだよ、そしてアンタの意思──!」
使い慣れたはずの闇鬼が、よく知った霊圧を纏って亜莉亜を襲う。
対照的な純白の刀が、眩しいほどに月光を反射して、闇を舞う。
『違う!!』
その声と共に、刀と刀が強くぶつかり、衝撃が広がった。
一歩下がった”自分”に告げる。
『私が望んだのは、復讐でも殺戮でもなく、平和な世界』
「そんなのは、綺麗事だ!お前だって分かるだろ?感じるだろ?裏切られて、裏切られて、何度も傷つけられて、この苦しみと憎しみと憤りが収まらない……!これをどうしろっていうんだ?平和なんて、実現しないものなんだよ、一生。なら、全部壊してしまえばいい!全て消して、更地にして、一から作るしかない!もう私は、自分を犠牲にして生きたくない!」
目にも留まらぬ速さで、偽の亜莉亜が襲い掛かる。
『ははっ……』
亜莉亜が乾いた笑い声を上げた。
『何にも分かってないんだな、複製には。浅はかだ。所詮人形だな、入力されたデータだけで私を決め付けるな』
純白の斬魄刀を、鮮血が滴った。
偽の亜莉亜の綺麗な顔が僅かに歪む。
『裏切られた?そんなのは理由にならない。自分がどうなろうが、関係ないんだよ。自分がどうなろうとも、私の仲間を傷つけることを、私は決して許さない』
「そんなの…!」
『言い訳は聞かない。──何にせよ姿は私。それならば、少しは話が通じるものだと思っていたが……とんだ勘違いだったようだ』
亜莉亜が斬魄刀の切っ先を向け、標的を定めるかのように見やる。
『私の大切な仲間に血を流させた、その罪は重いぞ。──楽には死なせん』
じわじわと伝わる殺気を感じ、偽の亜莉亜はかすかに狼狽した。
「た、拓斗……ッ!そいつを倒してくれ!私は人形なんかじゃない、本当だ!私が本物の神影亜莉亜なんだ!だから、だから──」
『無駄だ。見苦しいぞ。これ以上、私を失望させないでくれ』
冷めた目で亜莉亜は状況を見守る。
「拓斗!!お前なら、助けてくれるだろ?お願い……お前しか頼れないんだ。頼むから、私をこれ以上一人にしないでくれよ……。お前はずっと私の味方をしてくれたじゃないか。お願い──」
拓「ごめんね──」
拓斗が口を開いた。
その口調は明瞭で、もう迷いは感じれられなかった。
「何で……」
拓「君は、俺が好きな君ではないから。やっぱり、復讐のためだけに沢山の命を犠牲にして、それで笑う亜莉亜なんて、亜莉亜じゃないよ……。だから、ごめん」
そう言って、拓斗は力なく笑った。
偽物の亜莉亜は絶句している。
だが、しばらくすると口元を歪め、俯いた。
水色の髪が、サラサラと流れる。
「……消せ」
ぼそりと吐き出された言葉に、亜莉亜は驚きを隠せなかった。
『まさか、お前──!』
──橙色が割れて、散った。
拓斗が張った結界は、並みの死神が破れるような簡易的なものではなかった。
しかし、いとも簡単に割れてしまったのだ。
とある、”並みの死神”ではない、死神によって。
死神は、亜莉亜の斬魄刀を自らの斬魄刀で受け止め、軽々と払った。
警戒した亜莉亜は数歩後ずさり、二人の間には一定の距離が生まれる。
風さえも通らない空間で、緊張感だけが漂っている。
双方とも、何も語らず、ただ互いを見ている──まるで、品定めをしているかのように。
やがて、死神は首を捻り、地面に座り込む拓斗に目を向けた。
呆然としている拓斗の目が、はっと見開かれ、死神に釘付けになる。
死神の目は漆黒で、束ねられた長い黒髪が、すとんと地面に向かって垂れていた。
”亜莉亜”のものとは、似ても似つかなかった。
しかし、凛とした顔立ちと、真っ直ぐな瞳は、それこそ亜莉亜のものだった。
拓「亜莉亜……?」
目の前にいる二人の亜莉亜に動揺を隠せず、拓斗は尋ねる。
しかし、返事はなく、ただ視線をそらされてしまう。
そらした視線は、はっきりと”亜莉亜”に向けられていた。
『何してくれてんだ、てめぇは』
見た目からは想像もできないような低い声で、死神は──亜莉亜は言った。
「──ッ!」
偽の亜莉亜は悔しそうに唇をかみ、そして何かを考える素振りを見せた。
『知ってるぞ、お前は言わば、”私の複製”。私のデータを細かく入れられ、それに従い行動するだけの特殊な義骸──そうだろう?相当うまく作られたもんだと思ったが』
亜莉亜は目を細め、自身の偽者を睨んだ。
『思考や信念までは真似できなかったか、出来損ないめ』
静かに吐き出された言葉一つ一つが、重たく偽者の亜莉亜を責める。
「何だと──?」
偽亜莉亜の黒い刀──闇鬼が鈍く月明かりを弾く。
『私だったら──私だったら、こんなふうに死神を、仲間を……拓斗を、傷つけはしない──!』
ふいに冷たい風が亜莉亜の髪を大きく揺らした。
怒りの篭った亜莉亜の目が、薄暗い闇の中でも強い力を帯びている。
彼女の背後で、拓斗はそっと目を伏せた。
『なァ、誰がこんなことしろって言った?』
「それが私の意思なんだよ、そしてアンタの意思──!」
使い慣れたはずの闇鬼が、よく知った霊圧を纏って亜莉亜を襲う。
対照的な純白の刀が、眩しいほどに月光を反射して、闇を舞う。
『違う!!』
その声と共に、刀と刀が強くぶつかり、衝撃が広がった。
一歩下がった”自分”に告げる。
『私が望んだのは、復讐でも殺戮でもなく、平和な世界』
「そんなのは、綺麗事だ!お前だって分かるだろ?感じるだろ?裏切られて、裏切られて、何度も傷つけられて、この苦しみと憎しみと憤りが収まらない……!これをどうしろっていうんだ?平和なんて、実現しないものなんだよ、一生。なら、全部壊してしまえばいい!全て消して、更地にして、一から作るしかない!もう私は、自分を犠牲にして生きたくない!」
目にも留まらぬ速さで、偽の亜莉亜が襲い掛かる。
『ははっ……』
亜莉亜が乾いた笑い声を上げた。
『何にも分かってないんだな、複製には。浅はかだ。所詮人形だな、入力されたデータだけで私を決め付けるな』
純白の斬魄刀を、鮮血が滴った。
偽の亜莉亜の綺麗な顔が僅かに歪む。
『裏切られた?そんなのは理由にならない。自分がどうなろうが、関係ないんだよ。自分がどうなろうとも、私の仲間を傷つけることを、私は決して許さない』
「そんなの…!」
『言い訳は聞かない。──何にせよ姿は私。それならば、少しは話が通じるものだと思っていたが……とんだ勘違いだったようだ』
亜莉亜が斬魄刀の切っ先を向け、標的を定めるかのように見やる。
『私の大切な仲間に血を流させた、その罪は重いぞ。──楽には死なせん』
じわじわと伝わる殺気を感じ、偽の亜莉亜はかすかに狼狽した。
「た、拓斗……ッ!そいつを倒してくれ!私は人形なんかじゃない、本当だ!私が本物の神影亜莉亜なんだ!だから、だから──」
『無駄だ。見苦しいぞ。これ以上、私を失望させないでくれ』
冷めた目で亜莉亜は状況を見守る。
「拓斗!!お前なら、助けてくれるだろ?お願い……お前しか頼れないんだ。頼むから、私をこれ以上一人にしないでくれよ……。お前はずっと私の味方をしてくれたじゃないか。お願い──」
拓「ごめんね──」
拓斗が口を開いた。
その口調は明瞭で、もう迷いは感じれられなかった。
「何で……」
拓「君は、俺が好きな君ではないから。やっぱり、復讐のためだけに沢山の命を犠牲にして、それで笑う亜莉亜なんて、亜莉亜じゃないよ……。だから、ごめん」
そう言って、拓斗は力なく笑った。
偽物の亜莉亜は絶句している。
だが、しばらくすると口元を歪め、俯いた。
水色の髪が、サラサラと流れる。
「……消せ」
ぼそりと吐き出された言葉に、亜莉亜は驚きを隠せなかった。
『まさか、お前──!』