突然聞こえた声に、拓斗はパッと顔を上げる。
その表情は厳しい。
拓「亜莉亜…なの？」
『あぁ、そうだ。』
返事と共に、黒いコートを纏った亜莉亜が現れる。
フードは被っておらず、前に会ったときよりも姿がはっきり捉えられた。
『随分迷っているんだな。』
拓「だって…！」
拓斗は一旦顔を背けてから、すがる様に亜莉亜を見つめた。
拓「ねぇ、君は本当に復讐を望んでいるの？」
『……』
拓「俺が知っている君なら、そんなことは考えないはずだ。」
『……』
拓「君は本当に……亜莉亜なの？」
何も反応を示さない亜莉亜を不審に思いながら、拓斗が尋ねる。
『そうか、お前は、私を疑っているのか。』
拓「そんな……ッ」
悲しそうに目を伏せる亜莉亜を見て、拓斗は動揺する。
拓「俺は君を信じたい…！けれど、君がやろうとしていることは、間違ってる！」
『間違ってなんかいない…！私は、私はずっと――ッ』
亜莉亜の瞳に浮かんだ涙に、拓斗は息をのむ。
拓「亜莉亜…」
『明日。』
拓「えっ？」
亜莉亜が身を翻し、木々が生い茂る方へと足を進める。
『明日の夜、お前を迎えに来る。だから、それまでに決めておいてくれ。』
亜莉亜はふと足を止め、拓斗を寂しそうに見た。
『信じてる……から。』
途端に強い風が吹き、拓斗は反射的に目を閉じた。
その目が開かれたとき、亜莉亜は消えていた。
拓斗は、悲痛な面持ちで亜莉亜がいた場所を見つめていた。
"明日の夜"
そのときまでに、決断しなきゃ。
亜莉亜についていけば、それは王族や仲間、そして家を裏切ることになる。
ついていかなければ、それは亜莉亜への裏切りだ。
脳裏にさっきの亜莉亜の涙が浮かんだ。
無性に触れたくて、護りたくて。
でも、どこかで警鐘を鳴らす自分がいる。
どうしたらいいんだ。
俺は。