魅月は書類を手に、急ぎ足で去っていく。
杏「大丈夫でしょうか。こんなときに実戦訓練なんて。」
『敵のことなら、心配はいらない。実戦訓練となれば霊圧は制御しなくていいことになってるしな。それに、あの技局が変更なんか許すと思うか？』
杏「それは、そうですけど…」
『第一、今の隊員たちはあまりにも零番隊隊員として弱い。一度、それを思い知る機会が必要だと思っていた。』
杏「！…隊長」
杏樹が不安そうな声で呟く。
『さ、お前は早く帰って休め。こっちのことは私に任せろ。』
亜莉亜はそう言って杏樹を帰らせると、すぐに隊首室に入っていった。
実戦訓練時の隊員たちの配置。
席官の役割分担。
大虚出現ポイントの確認。
早急にやらなければいけないことは山ほどある。
それに加え、隊長の検閲と押印が必要な書類の処理もしなければいけない。
亜莉亜はため息をつきながら椅子に腰かけた。
大体、何故もっと早くに思い出さなかったのだろう。
また私らしくもないことをしてしまった。
焦っているのだろうか。
自分達と同等の力を持つ敵を目の前にして。
『…くそっ』
あいつらの目的は一体何なんだ。
亜莉亜は静かに拳に力を込めた。

チェック…
あたしの指に操られたクイーンの駒が、相手側のキングをとらえた。
あと一手。
あと一手で、チェックメイトだ。
…あぁ、何て楽しいのだろう。
全てはあたしの思い通り。
全ては順調に進んでいる。
あの二人が瀞霊廷から消える日は近い。
あと一押しってところね。
湖「…馬鹿な死神たち。」
あたしは口元に弧を描いた。
副隊長が生きてるってことは予想外だったけど…神影亜莉亜がこちらに来たのなら、別に問題はないわね。
計画通りにやればいい…。
湖娘の目が爛々と輝く。
そのときだった。
コンコン…
誰かがドアを叩く音がする。
…誰？
おかしい。
ここはあたしの自室じゃない。
あたしだけが知っている隠れ家よ？
湖娘は、焦る気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をした。