拓「……」
目の前に積まれた書類の山。
爽やかな朝日をよそに、拓斗は深くため息をついた。
実はこの書類、今日の分の書類ではない。
そして、隊全体の分の書類でもない。
そう、問題の、”吉沢湖娘”の物である。
他の隊員に押し付けて、全て済ませているのかと思いきや、そうでもなかったらしい。
だが、書類を溜められることは、他の隊員に押し付けることよりもやっかいだ。と、拓斗は思う。
書類にだって提出期限というものがあり、他の隊に回さなければならないものも多い。
拓「俺がするしかないか。」
他の隊員たちの書類を増やすわけにはいかないと、一人で書類整理を始める。
始業時間にはまだかなり余裕があるため、隊舎には拓斗しかいない。
ふと、筆を持つ手を止め、窓の外を見上げる。
拓「…はぁ。」
赤と青のグラデーションを纏う空が拓斗の目に映る。
…今朝は何故か、いつもより早く目が覚めた。
というより、眠れなかった、と言った方が正しいけど。
胸騒ぎが…するんだよね。
亜莉亜、どうしてるかな。
また怪我でもしてなければ良いけど。
拓斗は心の中で呟いた。
でも、こういうときに限って、予想は当たってしまうものである。
現に、亜莉亜は浦原商店で療養中だ。
──と言っても、拓斗はまだそれを知らない。

黙々と書類を片付けること三時間…
拓斗は、一つの霊圧が隊舎に入ってきたことを感じた。
しばらくたって、その霊圧は執務室の前で止まる。
まるで性格をそのまま表したかのような、甘ったるくて素顔が見えない霊圧。
コンコン
その霊圧の主がドアを叩く。
そして、拓斗がまだ返事をしていないうちに、扉が開いた。
拓「…駄目じゃん。許可もらってないのに勝手に入ってきたら。…上流貴族なら、ちゃんとそれなりの常識くらいあるでしょ？」
湖「知らないわ。どうだっていいじゃない。私は副隊長よりも偉いもの。」
今までとは打って変わって、黒々とした雰囲気を放っている湖娘。