亜莉亜は、ある一つの家の前で足を止めた。
コンコン…
戸を叩いてみるが、反応はない。
まあ、無理はないだろう。
こんな時間だ。
亜莉亜が諦めて、引き返そうとしたそのとき。
ガタッ
戸が開き、中から一人の老女が顔を出した。
『……菫ばあちゃん。』
懐かしさに目を細める。
死神になってからもちょくちょく会いには来ていたが、やはり懐かしいものは懐かしい。
菫「おやまぁ！こんな時間に誰かと思ったら、亜莉亜ちゃんだったかい。さ、お上がりなさい。」
老女が微笑んだ。

家に入ると、あまり広くはないその部屋に数人の子供たちが雑魚寝していた。
彼らもまた、亜莉亜がそうだったように、菫に拾われた子だ。
『元気にしてるか？』
亜莉亜は子供たちを見た。
菫「元気すぎるくらいよ。じゃが、亜莉亜ちゃんに会いたがってねぇ」
『そう、か。』
亜莉亜は切なげに目を細めた。
『なぁ、ばあちゃん。ちょっと話があるんだが。』
亜莉亜の視線が、菫をしっかり捕らえた。
菫「聞かないよ。」
『はい？』
きっぱりと断った菫に、亜莉亜の表情は凍りついた。
菫「あたしゃ知ってるよ。近々、大きな戦いがあるんじゃろ？話がしたいなら、それが終わってから話に来んしゃい。」
『──やっぱり、菫ばあちゃんには敵わないな。せっかく挨拶でもしとこうと思ったのに。』
亜莉亜は、嬉しいような、悲しいような、複雑な表情をした。
菫「亜莉亜ちゃん、無事に帰ってくるんだよ。ばあちゃんと約束じゃ。」
『…あぁ。』
無理矢理笑顔を取り作り、亜莉亜は返事をした。

私は恵まれている。
皆が生きろと言う。
無事に戻れと、無理をするなと言う。
正直、応えられる確証はない。
奴と戦うんだから。
だけど、叶うのなら──

亜莉亜は、月明かりを映す瞳を自分の進むべき道に向けた。