拓「亜莉亜〜、起きてる？」
ふすま越しに、拓斗の声が聞こえる。
私はそっと立ち上がり、ふすまを開いた。
拓「あ、亜莉亜。おはよう。」
『おはよう。』
何気ない会話。
だが、拓斗はどことなく落ち着かない様子である。
『どうかしたか？』
拓「いや、あの、あー……。亜莉亜の着流し姿、珍しいから、なんか落ち着かなくって」
『そう、か』
私は静かに目を伏せた。
といっても、何か意図があるわけではない。
ただ単に、気分が沈んでいるのだ。
拓「…」
『…』
微妙な空気に、私たちは黙り込んだ。
昨夜、"黒雷乃雅"の襲撃で傷を負った私は、傷の治療後も、あまり動かないほうがいいだろうというわけで、ここ、我妻家に泊まっていた。
ちなみに、傷については、卯ノ花が昨夜来てくれたため、ほぼ完治している。
とはいえ、あれだけの傷を負ったため、今でも激しい動きをすれば痛むし、出血が酷かったせいで、多少は目眩もする。
だが、私が落ち込んでいる理由は、そこにはない。
表面上の傷など、時間が経てばいつの間にか治っているものだ。
拓「……昨日のこと、気にしてる？」
浮かない表情の私を見て、拓斗は控えめに声をかけてきた。
『気にしてない、わけないだろ。──初めてだった。本気で、全力で戦ったのに、ここまで歯が立たなかったのは。』
そう。この言葉通り、私が気にしているのは、奴に完敗したこと。
それと、奴の残した言葉のこと。
"何で力を押さえてる"
"そんなんだから俺に太刀打ちできないんだよ"
どうして、力を押さえてることが分かったんだ。
今まで、誰にも気づかれていなかったのに。
長年共に過ごしている拓斗でさえも知らないのに。
拓「──とりあえず、朝ごはん食べよっか。話はそれからで。」
拓斗の提案に、私は静かに頷いた。