拓「あの子が大切なのは分かる。だけど、ここには零番隊の隊員たちもいる。これ以上の混乱を引き起こす訳にはいかない、でしょ？」
『…だがッ！』
納得いかない様子の亜莉亜を見て、拓斗は小さく息をついた。
拓「亜莉亜、ごめん。」
『…ッ！』
拓斗は亜莉亜を強引に抱えると、隊員たちの前──安全であろう所まで、移動した。
地面に下ろされた亜莉亜は、ルシファーたちのもとを振り返ったが、そこは空虚な空間が広がるだけだった。
『……』
叉夜…。
護ってやれなかった。
もう少し…もっと…
ああすれば良かった、こうすれば…と、後悔の思いがぐるぐると渦巻く。
ふと、誰かの手が肩に触れた。
はっとして振り返る。
『拓斗…』
拓「…亜莉亜の気持ち、尊重できなくてごめん。」
申し訳なさそうな表情の拓斗。
私は小さく首を振った。
『いいや。あれが最善だったんだ。…お前が私を押さえてくれなければ、私は今頃奴等の餌食だったかもしれない。それに、隊員たちの事もある。気にするな……』
亜莉亜の言葉に、拓斗は少しだけ表情を明るくした。
隊員たちは、二人のやり取りを静かに見守っている。
…というか、一切動かずにその場で待機している。
『…？』
何とも珍しい光景だと思う。
私が何かしたか？
少しだけ思考を働かせて考える。
私と目が合った杏樹が、にっこりと微笑んだ。
杏「隊長、ご指示を」
…あぁ。そうか。
その意味を理解した私は、隊員たちに求められているらしい行動をとることにした。
隊員たちの方を真っ直ぐと見つめる。
『零番隊は、これから尸魂界に退却する。今日はすぐに休んで構わない。今後は、奴等の襲撃に備え、書類仕事よりも鍛練を優先させるつもりだ。心得ておけ。』
「「「「はいっ！！」」」」
隊員たちは元気良く返事をした。
その中には、席官たちや華恋、江恋、そらの姿もある。
敵との戦闘で深傷を負った者がいないところは、流石零番隊だといえよう。
──気絶し、怜に担がれている龍は別として、だが。
亜莉亜は隊員たちの表情を見て柔らかな笑みを浮かべると、再び隊員たちに背を向けた。
その視線の先には、オレンジ頭の死神が立っている。
『黒崎』
一「…」
『…ありがとう。』
亜莉亜が微笑むと、一護は焦ったように目を逸らす。
『？』
一「…別に、何もしてねぇよ。むしろ、悪かったな」
そう呟く顔が、申し訳なさそうだ。
『あぁ、叩かれたのは驚いたが、まあいい。おあいこにしてやる。──行くぞ。』
亜莉亜は一護に背を向け、尸魂界へと旅立った。