らくがき
「こいつに一皿食わしちゃってくれ」
「へえ、才谷はん。そやけど、お代はちゃあんと
金払いが悪いのか、店のおばちゃんは鬱陶しそうにサイタニさんを見た。
確かに、身なりが良いとは言えない。
もともとは黒紋付だったのかもしれないが、日に焼けて変色し、もはや【黒】とは言えないし、それにどこか埃っぽい。
だが、人の良さそうな笑顔は、どこか親しみを覚えた。
「サイタニさん、いうんですか?」
「おう、才谷梅太郎じゃ」
(変な名前……)
笑いそうになるのをこらえて、あたしは「ふうん」と相槌を打った。
「おまん、名はなんちゅうんじゃ」
あたしは、ちらりと才谷さんの顔を見る。
「よう知らん人に名前教えられません」
才谷さんは、顔をしかめたところに運ばれてきた皿を、
「どうぞ」
にこにこ顔を作ってあたしの方へ押し出した。
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