最初【沖田総司】だと思ったポニーテールの男性は、どうやら【土方歳三】だったらしい。

（ていうか、やっぱり新選組やん！）

しかし、いい加減、新選組ごっこは止めにしてもらいたい。

「仕方ねぇ、成りも成りだし、一旦トンショへ連れてくか」
「そうですね」

もう一人が、しげしげとあたしを眺めながら応えた。

「そうじ、お前、先に戻って段取りしてこい」
「──！」

（え、沖田総司ってあんな髪型やった？）

彼は、普通に髷を結っていたので、誰か分からなかったのに。

（へえ、ああいうバージョンもあるのか）
（ほんで【そうじ】って濁るんやな、【そうし】とちごて……）

とか、あたしが色々考えてる間に、【沖田総司】（たぶん）が、

「わかった」

軽く言って、駆け出した。
その背中を見送りながら、聞いたことのない地名を、おそるおそるたずねてみる。

「あの、トンショ、ってどこですか？」
「すぐそこだ。坊城通りが分かるか？」

少し考えて、はい、とうなずいた。
その辺りのことを【トンショ】と呼ぶのだろうか。

（知らんかった）

「あの、【トンショ】て漢字でどう書くんです？」

【土方歳三】は可笑しそうにあたしを見下ろす。
左手の平に、人指しで「屯所」と書いた。

「ま、俺たちの寝ぐらだな」

（コスプレイヤーの事務所かな？）

前を歩く【土方歳三】について歩きながら、まだあたしは呑気に構えていた。





夜道は暗いもの/終