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やんややんやと餅つきが続いている台所に、また一人隊士がやってきた。
あたしもよく知った隊士さんだ。
「林さん!」
林さんはすぐに人懐っこい笑みを浮かべて会釈する。
「これは、
のぞみ殿。餅つきですか?」
と言うと、急に驚いた顔つきで声をあげた。
「やや、安藤!こんなとこにおったんか!!」
そして、呆れたような顔をするとくすくす笑い出した。
「えらい奴っちゃな、びっくりするわ」
「どうかしたんですか?」
あたしが言うと、林さんは苦笑いでこちらを見た。
「
のぞみ殿、安藤はよう手ぇ洗いよりましたか?」
「───さあ、どうやったですかねぇ?」
にこにこしながらやって来て、そのまま合取りを始めたような気がする。
「あいつ、さっき切腹の介錯をしよったんですよ。
後ろに立ってバサリとやると、刀を渡してすぐにすぅーと何処かへ消えてなくなりよったんです。
何処へ行ったんかと思てたら、もうこんなとこで、こんなことをやってよるもんやから」
可笑しそうに言って、「ほんま、びっくりしますわ」と驚いたような感心したような顔つきで首を振った。
今また一臼つきあげて、安藤さんはこちらへやって来る。
「林、
いらんこと言うな。
折角忘れているものを───ね、
のぞみ殿。
昨日まで同じ釜の飯を食うてた先輩を斬るんですから、なんぼ我々でもいい気持ちはしませんよ」