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八木さんちの台所が最近忙しそうだ。
「もうじきお正月どすさかい、いろいろ用意がおますし」
リクちゃんがやんわりと笑んだ。
彼女は最初に会った頃と比べるとぐっと大人びた気がする。
女っぽくなったというか───。
野口さんの影響が大ということくらい、この鈍感なあたしにも分かる。
「二十八日はお餅つきどすえ、
のぞみはん」
スエちゃんは、相変わらず少女らしい顔つきで嬉しそうに笑う。
「お餅つき?!」
「へぇ、毎年師走の二十八日はお餅つきて決めたはるんどす」
そう言えば、おばあちゃん家のお餅つきは毎年30日と決まっていた。
杵と臼でついたのは、まだ小さな子どもの頃で、物心ついたころは機械に変わっていたから、本当の意味でのお餅つきは久しぶりだ。
「見ててもええんかな」
「へぇ、その日ぃは、あてらもお相伴さしてもらえますさかい。
のぞみはんもいっしょにご馳走になりまひょ」
というか、今日は一体何日なんだろう。
「なぁ、今日って何日?」
「今日は二十四日どす」
「え、24日?!」
「なんぞ、ご用でもおありどしたか?」
「クリスマス・イブやん!」
「くりす………て、なんどす?」
「えーと」と、あたしは考える。
江戸時代は、確かキリスト教が禁止されていたはずだ。
ということは、【イエス・キリストの誕生日】と大きな声で言うのは良くないだろう。
「えーと、あたしの田舎では、お祭りがある日ぃやねん」
「へぇ、【くりす祭り】どすか」
「そうそう、くりす祭り!」
どことなくダジャレみたいなその響きに笑いをこらえながら、あたしはうなずいた。