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次の日の朝、台所からお膳を二つ積み上げて、あたしはまず土方さんの部屋を訪れた。
障子を開けたあたしの足元を見て、土方さんは眉を歪める。
「俺ァ、お前ぇなんかと一緒に朝飯を食う気はねぇぞ」
「…………、あ、土方さんのと、サンナンさんのです」
何言うとんねん────そう思いながら、あたしはそっけなく答えた。
土方さんは、ムスッとしている。
とんちんかんなことを言ってしまって恥ずかしい、と思っているんだろう。
「お前ぇ、昨夜俺が言ったことがまだ分からねぇみてぇだな」
恥ずかしいのを誤魔化すために、攻撃に転じることにしたようだ。
「ゆうべ?……ああ、【お手つき】なるってことですか?」
「ほほう、それを分かった上でまだサンナンさんの世話役を買って出るってぇのか」
【私はもう女を抱くことは出来ないんだ】
山南さんは、そう言った。
そんなプライベートなことを打ち明けるのに、どれほどの苦痛が伴ったことだろう。
山南さんは、身体にも心にも、とても深い傷を負ってしまった───。
「土方さんには、関係ないことでしょ」
素っ気なく言って、ガチャンとお膳を置いた。
「それより、土方さんこそ、一々あたしに運ばせんでも、みんなと一緒に食べはったらええやないですか」
土方さんはムッとしてあたしを睨みつけた。
「俺は独りで食うのが好きなんだよ」
「ふうん、やっぱり変わったはりますね」
「────は?!」
してやったり────と、ほくそ笑みながらあたしは山南さんの部屋へ向った。