「あ、のぞみはん！」

スエちゃんが気付いて、カラコロと下駄を鳴らして、こっちまで来てくれた。

「沢山（ぎょうさん）積み上げはって！大丈夫どした？」
「うん、こう見えて結構力持ちやねん、あたし」

それをヒョイと受け取ってくれるスエちゃんも、あたしより小柄ながらかなりの力持ちだと思う。
リクちゃんと手分けして、二人はてきぱきと後片付けを進めていった。

「なんか、あたしも手伝おうかぁ？」
「滅相もおへん、のぞみはんにこんなことさせたら、あて、土方先生に切腹ゆわれますよって」

冗談めいた言い方で言って、スエちゃんがくすくす笑った。

「もうちょっと飲もうかなぁ」

あたしはそう言いながら、台所の板の間をうろうろしていると、勝手口から隊士が一人こっそり顔を出した。

（あれは………）

あれは、野口さんだ。
芹沢さんたちがいなくなってからというもの、野口さんはずっと前川邸で寝起きしているので、滅多に顔を見なくなっていた。

「のぐちはん！」

リクちゃんが、恥ずかしそうにこちらをチラッと見た。

「リクちゃん、あたしやっとくから、行ってきたらわ？」
「そ、そんなん、あきまへん！」

リクちゃんは、両手をパタパタ振ってあたしを土間に下ろさないようにする。

「切腹どすよ、おリクちゃん！」

スエちゃんがふざけて言うと、笑いながら野口さんが入ってきた。