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実際に食事を始めてみると、山南さんはほとんど介助を必要としなかった。
右手で持ち上げたお茶碗を吊っている左手にポンとのせると、後は前と変わらない上品なままの山南さんだ。
「何だい、そう見られていては恥ずかしいよ」
山南さんは恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「私は一人でも大丈夫だから、君は皆と一緒に夕餉を頂いて来なさい」
でも、あたしが左之さんの部屋へ行ってしまったら、山南さんはこの部屋で一人ぼっちで食事をすることになる。
それはダメだと思った。
「ほな、あたしもここで食べてもいいです?」
「ここで?」
「はい、あっちやとまた新八さんのフンドシ一丁踊りとか見ないとあかんから」
あたしはわざとらしく顔をしかめる。
山南さんは、小首をかしげて考え込んでしまった。
優しい山南さんは、きっと【こんなところで食事なんかさせたら楽しくない思いをさせる】と心配してくれているんだと思う。
「ね、いいでしょ?
それに、ほら!二人やと、英語の話とかもできますし」
ようやく顔を上げて、山南さんは笑みを浮かべた。
「君がそう言ってくれるなら」
「はい、あたし、サンナンさんと一緒に食べたいです」
「嬉しいことを言ってくれる」
「ほな、あたしのお膳取ってきますね。ちょっと待っといてください」
あたしは立ち上がって障子に手をかけた。
「慌てなくても大丈夫だよ。私は逃げも隠れも出来ないから」
【出来ない】────その言葉が剣みたいに胸に突き刺さった。
山南さんは、考えたことはないのだろうか。
土方さんを助けなければ良かった───と。
あたしは頭を横に振る。
山南さんは、そんなことを考える人じゃない。
もちろん、全く後悔しないことはないだろう。
でも、土方さんを恨みに思ったりするような人じゃない。
だからこそ、余計に悲しくなる。
なぜ、そんなにいい人がこんな目に遭わなければならないのか。
山南さんを刺した男は一くんたちにめった斬りにされたらしいけど、あたしだって一太刀お見舞いしてやりたいくらいだ。
悲しい気持ちをかき消したくて、あたしはわざとバタバタと足音を立てて台所に向かった。