地獄の山南敬助
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「サンナンさ~ん、朝餉ですよーお!」
大坂の屯営になっている宿の一室で、山南は療養を続けていた。
部屋は小さな庭に面していて、小ぎれいに手入れされた庭木が緑の葉を茂らせている。
襖を開けると、山南は蒲団に仰向けになったまま、天井をぼんやりと見詰めていた。
怪我を負ってすぐの頃の山南は、気丈に周りの者に気遣いを見せるほどだった。
それが、まるで人が変わったみたいだ───沖田は表情をわずかに曇らせた。
まるで生ける屍だ───沖田はそう思う。
左手が動かせない上に、脇腹に傷を負っているので、起き上がるにも人の手を借りねばならない。
女中に世話してもらうのを嫌がる山南の面倒を見ているのは、主に沖田だった。
「さ、起きましょ、サンナンさん」
明るく言って、沖田は山南の両脇に腕を通して起こした。
「すまないね、沖田くん」
ぼそりと呟いた声に、以前のような張りはない。
「何言ってるんです。さ、ちゃんと食べて元気出してください」
山南は【元気だけあっても、この身体では】というように、顔をしかめて溜息をついた。
明里の身請けを破談にした事は、土方からの手紙によって既に沖田に知らされていた。
確かに山南の気持ちも分からないではない。
好いた相手なら、尚更、惨めな姿を見せるのは忍びないだろう。
沖田に握らされた味噌汁のお椀に嫌々唇をつけ、少しすすっただけで、「ご馳走さま」と山南は沖田に差し出した。
随分痩せた───沖田は思った。
食が細くなったことはもちろん、剣を振らなくなって、胸や腕の肉がこそげ落ちたように思う。
ほぐした魚の身を沖田が箸で挟んで山南の口へと運ぶ。
山南にとっては、きっと屈辱以外の何ものでもないだろう。
ふたくち、みくち食べただけで、「もういい」と山南は首を横に振った。
「サンナンさん、そろそろ蒲団を出てみませんか。散歩に行きましょうよ」
医師からは、そろそろ床上げしても良いと聞かされていた。
怪我のせいで、足をひきずることになるかもしれないが、歩けないことはないとも聞いている。
何より、歩かせないと肉が落ちて、本当に歩けなくなってしまうと言われていた。
「すまないね、沖田くん。疲れたから、また横になりたい。頼むよ」
沖田は悲しい気持ちになって、山南をまた蒲団の上に横たわらせた。