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沖田が離れていくのを待ってから、山南は大きく溜息をついた。
あの日から随分と経った。
傷付いた左腕と脇腹は、幸運にも膿むことなく塞がったが、腕は思うようには動かせない。
それに脚には痺れがあった。
───放っておけ
あの声に従っていたなら───そう考えない日はない。
自由のきかないこの身体では、自刃することも叶わない。
見飽きた天井をぼんやりと眺めながら、今日幾十度目かになる溜息をついた。
「サンナンさ〜ん!」
何か忘れ物でもしたのだろうか、沖田の陽気な声とともに襖が開く。
「あれっ?お昼寝中でした?」
「いや、起きているよ」
僅かに首を沖田の方に向けて山南は静かに言った。
少年のように無邪気なところのある沖田には、山南の心の内など想像できかねるのだろう。
まるで楽しいことでも伝えるように、にこにこと言った。
「土方さんから手紙が届いていますよ。サンナンさん宛のものもあります」
「何だろう、いよいよお役御免の通達かな」
「またまた〜、何を弱気なことを言ってるんです。
そんな訳ないでしょ、あの人、あれであなたのことは頼りにしているんだから」
どうだか───山南は思う。
京に戻るのは嫌だ。
憐みの目で見られるのは耐えられない。
白粉の臭いも、絡みつくような白い指も、何もかもこの世から無くなってしまえばいい。
「どうします?起き上がります?
それとも、僕が読んで差し上げましょうか?」
「いや、自分で読むよ。申し訳ないが起こしてもらえないか」
沖田は、山南の両脇に自分の腕を差し込むと、「よいしょ」と起き上がらせた。