地獄の山南敬助
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「サンナンさんに手紙を送るが、あんたは何かないかい?」
自室に現れた土方に、近藤は筆を置いた。
「やあ、トシか。どうだ、益々いい感じになってきただろう」
紙に書き付けた書を指でつまみ上げ、近藤は胸の前に垂らして見せた。
相変わらず頼山陽の手本で手習いを続けている近藤は、最近の自分自身の上達ぶりに悦に入っている。
「ああ、そうだな」
土方は、どうでもいいように返事をした。
正直、土方の文字を完璧なまでに模する彼女の足下にも及ばないと思っている。
「で、どうなんだ。サンナンさんへ何か───」
「ああ、そうだったな。私からは特に何もないよ。
そうだ、美味い酒でも送ってやってくれ。
サンナン君には、ゆっくり静養してもらいたい」
「分かった」と言って、土方が部屋を離れようとすると、背後から近藤が呼び止めた。
「お前、最近働きすぎじゃあないのか」
土方は、ゆっくりと振り返った。
近藤は笑みを浮かべている。
「のぞみ君が大層心配していたぞ。
【あての大事なトシ様に何かあったら大変どすぅ】と、涙目で訴えられてしまってなぁ」
近藤は妙な抑揚をつけて言った。
彼女の真似をしているつもりらしいが、そもそも彼女は【どす】とは言わないので、すぐに嘘だということが判る。
「人が足りないのは分かるが、もう少し若い者に任せて、夜くらいゆっくりしたらどうだ。
のぞみ君が拗ねておったぞ」
にやりと笑って、近藤は水差に手を伸ばした。
「あいつァ、そんな事ァ言わねぇよ」
「お前ともあろうものが、女心を分かっておらぬとはなぁ」
ポトポトと硯に水を落とし、ゆっくりと墨をすり始める。
「とにかく、根を詰めるな。
働き過ぎると【家老死】という死病に罹るとのぞみ君が心配していたぞ」
「【家老死】だァ?そんな病、聞いたことがねぇぞ。
第一、俺たちァ、そんな大層な身分でもないだろう」
土方は、フンと鼻で笑う。
「私にも分からんが、サンナン君が言うには、あの娘は意外に西洋通らしくてな。
あのサンナン君さえ知らぬ事を沢山知っておるらしい」
「フン、大方あいつにからかわれたんだ、近藤さん」
「まあ、それでも構わん。
それほどまでに、夜はお前と一緒に居たいという事なんだろう。
いじらしいじゃないか、え?
今夜はのぞみ君としっぽりやりたまえ」
馬鹿馬鹿しいと鼻で笑って、土方は近藤の部屋を後にした。