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お坊さんも走るという師走。
旧暦の影響か、12月とは思えないような寒い日が続いている。
雪がチラつく日も珍しくない。
そんなある日、山南さんは総司くんに付き添われて帰ってきた。
歩くのがまだ辛いのか、山南さんは駕籠に乗っている。
降りるときには、総司くんが肩を貸した。
出迎えに出ていた新八さんも、慌てて駆けて行って、反対側の肩の下に自分の肩を差し込む。
山南さんは、照れたような困ったような笑みを浮かべていた。
狭い縁側では男三人が横並びに歩くことが出来ず、新八さんが山南さんを支えた。
脚にも怪我をしたのだろうか、わずかに脚を引きずっているように見える。
「ちょっと」
肩をつつかれて振り返ると、総司くんがムッとして立っていた。
「なに?」
「【何】ってなんなんだよ、【おかえりなさい】とか無いの、僕には?」
「ああ、…………おかえり」
「何それ、全っ然気持ちがこもってなぁい!」
「そう?ほな、おかえりなさい。お疲れさまでした!
どう?」
総司くんは腕を組んで、フン、鼻から息を吐き出す。
「それに、あの手紙は何なの?!
たくもうっ、君ってほんとに信じ難いくらい馬鹿だよね!」
あたしを追い抜いてのしのしと自室に向かって歩いていく後ろ姿を、あたしは微笑ましく見送った。
【あのフミ】とは、山南さんに手紙を書いたついでに総司くんにも書いて送ったものの事を言っているのだ。
平助くんや一くんの面白い話などを取り留めもなく書き綴った後に、
【時節柄お風邪など召されませぬやふ、ご自愛なされませ】
と締めくくったと見せかけて、【ま、アホは風邪ひかんて言うけれど】と付け加えておいたのだ。
ついでに、鼻を垂らした総司くんの似顔絵も描いてあげた。
「お着替え、
手伝うたげよかぁ?」
クククと笑って小走りに総司くんを追いすがると、鬱陶しそうな顔が振り向いた。
そしてニヤリと笑う。
「スケベ」
「────は?」
「そんなに僕の裸が見たいの?」
「アホか、そんなわけないやろ」
「まさか君、僕のことを好いているんじゃないだろうね」
「そんなこと、ある訳ないやん」
「好きな子には悪戯したくなるっていうじゃない」
「あんたにイタズラするんは、面白いからや」
フン、と鼻から息を吐き出して総司くんは面倒臭そうに言った。
「僕よりサンナンさんを手伝ってあげなよ。左手が不自由だし、着替えも大変だからさ」
「────あ、そうか」
そうか、着替え、食事、片手しか動かせないのでは何かと生活しにくい。