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先ほど【おやすみ】と言っていたから、
(もう寝てしまわはったかなぁ………)
そう思いながら山南さんの部屋までやって来た。
だが、山南さんの部屋の障子は明るかった。
まだ明かりが灯っているから、きっと起きているだろう。
そもそも彼は、お酒を運ぶよう頼んでいたわけだし。
「サンナンさーん、入ってもいいですぅ?」
障子越しに声を掛けると、中で衣擦れの音がして、影が近付いた。
スッと障子がスライドすると、山南さんの清々しい香りがあたしを包み込む。
「ふぁ~、いい匂い!」
「あれ、君が持って来てくれたのかい?」
「はい、入ってもいいです?」
山南さんはくすくす笑う。
「私は構わないけどね。あとで土方くんに怒られなきゃいいけど」
あたしが通れるように、山南さんは一歩後ろに身体を退いた。
「なんで怒られなあかんのです?
あたし、今日のお詫びとお礼を言いにきたのに」
「【自分のもの】だと思っているものに余所の男が手を出そうとするのが堪らないのさ、男っていうのはね」
「ふうん、なんか、よう分かりませんけど」
くんくんと山南さんの匂いをかぎながら、あたしは部屋の中に入った。
「サンナンさん、めっちゃいい匂いしますね」
「うん?」
「お香焚いたはるんですか?」
「ああ、」と山南さんは袂に手をいれて、何かをつかみ出した。
「匂い袋だよ」
小さな巾着袋が手の平にのっている。
それに鼻を近づけると、なるほどいい匂いがした。