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「
のぞみは部屋で休んでな」
平助くんは、あたしの部屋に布団をのべてくれた。
「じゃな、ゆっくりしてろよ」
にっこり笑って障子に手をかける。
「へ、平ちゃん………」
障子を閉めかけた手を止めて、平助くんは顔を部屋に突っ込んだ。
「うん?どうした?」
「どこ行くん?」
「どこも行かないよ」
あんな事があった直後でも、平助くんはいつもとなんら変わりがない。
それだけ【あんな事】に慣れているということなのだろうか。
「食事の準備が出来たら呼びに来てやるからさ。寝てたらいいよ」
にっこり笑って、平助くんは障子を閉めた。
しんとした自室を見回す。
手持ち無沙汰になって、バッグに手を突っ込んでiPhoneを取り出した。
イヤホンを耳に突っ込んだが、思い直してバッグの中に戻した。
独りでいるより、みんなと一緒にいた方が気が紛れそうだ。
黙っているより、不安は言葉に出したほうがいい。
あたしは、左之さんの部屋に向かった。
ところが、左之さんの部屋には誰もいなかった。
だが、灯は入っているので、たまたま今いないだけなのだろう。
そこであたしは台所へ向かうことにした。
平助くんが食事の用意を代わってくれるようなことを言っていたから、きっとそこにいるんだろう。