<1>
届いたばかりの袷(あわせ)の着物を着て、あたしは縁側を四つん這いでダダダと駆けていた────そう、雑巾掛け。
「足の裏が真っ黒になるのは何故だと思う」
土方さんがそう言ってきたので、
「さあー、足汗かきすぎちゃいますか」
そう答えたら、頭の上にゲンコツが落ちてきた。
(【縁側拭き掃除せぇ】て、ハッキリゆえよ)
ほんま、小舅みたいなオッサンやな────という気持ちを足音で表現しながらドタドタドタッと走り回っていた。
そんなあたしに、源さんは「おや、
のぞみ君精が出るね」と穏やかな笑みを向ける。
源さんは、あたしのお父さんより何才も年下だが、見た目はお父さんより10才は年をとって見えるから不思議だ。
総司くんなんか、時々【おじいちゃん】と呼んでいる。
それを思い出して、あたしは「あはは」と苦笑いを浮かべた。
すぐに真っ黒になる雑巾を桶に汲んだ水で洗って、「はあっ」と両手のひらに息を吐きかけた。
ここへ来たときは、冷たい井戸水が気持ち良かったのに、今は指先がかじかんでしまう。
あたしは、本当にもう元の時代には戻れないのだろうか────。
「大丈夫かい?」
桶の前にしゃがみ込んで手をこすり合わせていると、いい声が背後から聞こえてきた。
振り返ると、山南さんが心配顔で立っている。
「土方くんに言いつけられたのかい?」
【言いつけられた】という言い方が可笑しくて、あたしは思わず笑みをもらした。
「そうなんですよぅ」