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すっかり秋の景色に変わった壬生寺の境内で、沖田は乳飲み子を腕に抱いて揺すっていた。
「すんまへん、沖田はんに押し付けてしもて………」
菊は恐縮したが、赤子を抱いていると温かくて気持ちいい。
「気にしないで、好きでやってることだし」
頬を赤らめて、菊は頭を下げた。
「
のぞみはんは、お忙しいんどすやろか」
ここのところ、彼女は姿を見せていない。
だが実際に彼女がやってくると、沖田は彼女とばかり話している。
だから、悪いとは思いつつも、
のぞみがやって来ないことを菊は密かに喜んでいた。
「さぁ~、土方さんの言いつけを守らなかったせいで長州の間者に殺されかけたから、きっと毎日こっぴどいお仕置きをくらってると思うよ」
沖田は面白いことのようにケラケラと笑う。
「へっ?どうもなかったんどすか、
のぞみはんは?」
「うん、まったく悪運が強いっていうかさ。かすり傷一つ負わなかったんだ。
土方さんは、おろしたての羽織が台無しになったって怒ってたけど」
屈託なく笑う沖田の横顔を、菊は見上げた。
(しょうおへんお人どすなぁ)
どこから見てもちゃんとした若侍なのに、どこか子供っぽくて目が離せない。
(可愛いお人や)
男の人を【可愛い】だなんて無礼だと思いつつも、菊は頬を緩めた。
「でさ、今朝は寒くて着替えが出来なかったって言って、寝間着を脱がないで、その上に襦袢を着てるんだよ。
よくそんな馬鹿なこと思いつくよね」
菊も思わず、くすくすと笑った。
「
のぞみはんらしゅうて、面白おす」