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「ほんま、怖おすわ」
あの日あったことを洗いざらい話したあと、リクちゃんそう言ってお茶をすすった。
あの日、他に死んだ隊士がいたという。
荒木田さんと御倉さんだ。
あの騒ぎは、きっとそれが原因だったんだろう。
「相変わらず、よう知ってんなぁ」
半ば呆れてあたしはリクちゃんを見た。
スエちゃんは、あたしの目を覗き込むようにして囁いた。
「斎藤はんと、林はん、やったらしいどすよ」
荒木田さんと御倉さんを殺したのは────という意味なのだろうか。
スエちゃんは続ける。
「怖おすけど、それが日常茶飯事になってしもてて、あんまり怖い思わんようになるんも怖いな、て思うし」
「そうやな、」
リクちゃんは、幾分冷静だ。
誰かが食べ残した漬物をつまんで口に放り込んだ。
「そやけど、楠はんが長州やなんて思わんかったわ。
荒木田はんらは、そもそも長州の国抜けやったし分からんでもないけど、楠はんは京のお人どしたやろ?」
「そこが分からへんのよ」
スエちゃんは楠くんのファンだったから、ショックを隠せないでいる。
「あて、長州のお人嫌いどす!」
スエちゃんが頬を膨らませた。
リクちゃんも、漬物をパリパリいわせながら、怒ったように言った。
「ほんま、なんであのお人らに味方するお人がいはるんか分からしまへんわ」
京都、大阪では、長州に肩入れしたり匿ったりしている商家や宿も少なくないという。