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───ああも簡単に敵に背中を見せちまうなんてな
───あの人があんなに動揺してるのは初めて見たぜ
左之さんは意味ありげにそう言った。
だがそれは、ひとつ屋根の下で寝起きをともにしている人間が目の前で殺されるのは、いくらなんでも寝覚めが悪いと思ったからだろう。
(あたしを拾った手前もあるやろしな………)
その証拠に、土方さんは昨夜帰って来なかった。
(あー、あほらし)
ほんの少しでもドキッとなんかして損してしまった。
あたしはガバッと起き上がって布団を跳ね上げた。
「寒っ」
あーもう、寝間着を脱ぐのがおっくうになるほど寒い。
(……………、)
そうか、脱がなければいいのである───寝間着を。
あたしは、寝間着の上に襦袢を重ねて、その上に薄っぺらい夏の着物を着る。
夏の間、暑いからとゆるゆるに着ていた着物を、きっちりと身体にきつく巻き付けた。
袴に足を突っ込んで思う。着物の裾がめくれ上がるから、足首がスースーして冷える。
(ハイソックス欲しいなぁー)
なぜ冬にこっちに来なかったんだろう。
冬だったら、ヒートテックとかタイツとかマフラーとか手袋………完全防備で来られたのに。
ブツブツ言いながら、台所から左之さんたちの部屋へとお膳を運んだ。