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こっちに来て数か月。
長いような短いような。
でも、まあここで死んでもいいかとも思う。
案外それがきっかけで元の世界に戻れるかもしれないし。
そうでないとしても、───死ぬだけだ。
目の前で土方さんがすらりと刀を抜いた。
ほらな───、そりゃあ、あたしを【女の盾】に使おうって人やもん。
───痛いのかな?
できるなら、即死できる方法でお願いしたい。
それこそ、───目の前にお梅さんの姿が映った。
そう、お梅さんのように、一思いに首を切って欲しい。
「楠、そいつを放せ」
土方さんは目の前に迫っている。
抜き身の刀をだらりと下げて、立ち止まった。
そうだ、どうせなら首を切り落としやすいように頭を垂れておこう。
そろりと頭を下げたと同時に、とんと背中を押された。
けつまずくように踏み出したあたしは、もがくように手を前に突き出した。
まるで水中を歩いているかのように、思うように前に進めない。
すぐ目の前にいるはずの土方さんまでの距離が、25メートルプールくらい遠く感じる。
背後で楠くんが声をあげた。
何と言ったのかはわからない。
水の中にいるみたいに、こもったみたいに聞こえる。
でも、「斬られる」そう本能が感じ取っていた。
足がもつれた。
走って逃げ出したいのに、思うように身体が動かない。
背後で振り下ろされる刃が目に見えるようだ。
(もう、あかん………!)