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楠くんを逃がすにしても、【勝手に脱退してはいけない】という規則がある。
逃げた者は追跡されて必ず処分されるという。
どうすればいいのかわからないまま、あたしは過ごしていた。
「ふぁ~、」
あくびをしながら清書を頼まれた手紙を書いていると、部屋の主が足音を立てて帰ってきた。
「おう、ここに居たのか」
公用から帰ってきた土方さんは、黒紋付を着ていた。
あたしは、この黒紋付姿が好きだ。
誰が着ていてもキリッと見えて格好いい。
土方さんは男前なので、特によく似合うように思う。
(ええのは見た目だけで、根性は腐ってるけど)
いい加減あたしもしつこいとは思うけど、まだ腹立ちがおさまらないでいた。
なので、必然的に言い方も憎たらしいものになる。
「ここにいたらあきませんか?
土方さんに言いつけられた用事してたんですけど」
小さいため息が聞こえて、更に怒りが増す。
「ここにいたんなら丁度いい。着替え、手伝ってくれ」
(はあぁ??!)
思いっきりメンチを切って睨み付けた顔に、羽織が飛んできた。
「もう、何するんですかぁ!」
頭にかぶさった羽織を取って、再び土方さんに目を向けると、「ふん、」と笑っている横顔があった。
(なんも、可笑しないし)
ムカッとしながらも、あたしは羽織に皺がよらないように丁寧にたたんだ。