忍び寄る影
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あたしの後についてきた楠くんは、部屋の前で立ち止まった。
あたしが、文机に置いた硯に水を垂らしているのを、黙って縁側から見ている。
「墨、すってくれるんとちゃうん?」
笑い含みに言うと、楠くんはきょろきょろと縁側を見渡した。
「そやけど、怒られませんか?勝手に副長のお部屋に上がり込んだりして………」
小声でそう言ってくる。
「うん、そもそも、ここ八木さんの家やし。オッサンのもんとちゃうし」
笑いながら言って、あたしは「入っといで」と手招きした。
楠くんは抜き足差し足で入って来て、あたしの右後ろに控えるようにちょこんと座った。
「いつも、ここでお仕事を?」
「うん、ここ、陽ぃがよう入るし明るいやろ?」
「はぁ、」と生返事をして、楠くんは部屋を見渡している。
「ええ部屋占領しとぉるやろ、あのオッサン」
酷い言葉遣いに驚いたのか、楠くんは目を丸くしてあたしを見た。
あたしは一番太い筆に墨を含ませると、力任せに書きなぐった──【Go to HELL!!】
こうしておけば、悪口だとは誰も気付かない。
我ながら稚拙な行為だと思いながら、それを目の前の障子に立てかけた。
「なんて書かはったんどす?」
楠くんが訊いてきた。
「【地獄に落ちろ】って意味」
あたしが笑うと、楠くんも苦笑いした。
「そやけど、どう読んだらそう読めるんです?
わてには、全然わかりませんけど………」