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朝のお膳を持っていくついでに、昨日借りっぱなしにしてしまった土方さんの羽織を持ってきた。
「すいません、借りパチしてました」
「───なんだ、【かりぱち】ってぇのは」
「借りたまま、ぱちってしまってました」
土方さんは眉間に皺を寄せる。
「そやから盗ってしまうことです。
借りたまま【パチる】こと、つまり借りっぱなしってことです」
「───ああ、なるほど」
「言いませんか、借りパチって」
「言わねぇな」
フンと笑って、箸を取り上げる。
立ち去ろうとするあたしの背中に、土方さんは声をかけた。
「そういやぁ、お前ぇ、俺に話してぇことがあるそうじゃねぇか」
「───へ、別になんもありませんけど」
芹沢さん殺しの疑惑はとりあえずはおさまりがついたし、特に何も思い当たらない。
あたしは小首をかしげて考えた。
まあ、【いつ追い出されるにゃろう】とビクビクはしているかもしれないけれど。
「そうかい、左之助から【腹に据えかねてることがあるらしい】と聞いたが何でもねぇんだな?」
───左之さん?
「ああ、───」
くずきり100杯。
「はい、無視しといてください。
何でもないんで」
あんな話、ヤキモチ焼いてるみたいで格好悪い。
別にあたしは土方さんのことが好きってわけではないし、変な誤解を招くのは困る。