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木屋町通を四条から上がって、楠くんと二人でぶらぶら歩いていた時だ。
楠くんが小さく声をあげた。
不思議に思って顔を見ると、
「知り合いの人が………」
あたしはきょろきょろしたが、隊士のような人は見えない。
「ちょっと挨拶してもよろしいでしょうか?」
断る理由もないので、「うん、もちろんええよ」と笑顔を作った。
笑顔で応えて、楠くんは歩き出す。
速足に歩き出した楠くんの後を追った。
「松輔さん!」
楠くんが声をあげた。
華奢な身体つきと少年のような顔立ちには少し不似合いな、しっかりとした声に少しあたしは驚いた。
楠くんの視線の先を見ると、品の良いおじさんがいた。
商人だろうか、高価そうな趣味の良い着物を着ている。
楠くんに気付いて目を丸くした顔は少しチャーミングだ。
「やあ、小十郎じゃないか」
マツスケさんは笑みを浮かべたが、はっとしたように言い直す。
「おっと、いけない。
今はもう武士になったのだから、【小十郎殿】とお呼びするべきでしたね。大変ご無礼仕りました」
マツスケさんは慇懃に腰を曲げた。
「嫌ですよう、そんなことしはったら。
松輔さんの前では、わてはいつまでも奉公人の小十郎どす」
こうして近付いてみると、それほどおじさんではなく、土方さんと同じか少し上くらいの歳だろう。
目鼻立ちのはっきりとした、なかなかの男前である上に長身だ。