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「
のぞみはん、どないしはったんどすか?」
台所で食器の片付けをしていたあたしにスエちゃんが声を掛けてきた。
「───え、どうもせぇへんよ」
「そやけど、おっきいため息ついたはりましたえ?」
「───え、ほんま?」
「土方はんに怒られはったんどすか?」
どうせなら、大声で怒鳴られた方がまだマシだ。
【ここを出ろ】
そんなふうに静かに言われるなんて、よっぽど腹に据えかねているんだと思う。
そもそも土方さんにしてみれば、あたしをここに置いておく理由などないのだ。
「
のぞみ殿!」
澄んだ声の方を見ると、楠くんが勝手口からひょっこりと顔をのぞかせている。
「あ、楠くんやん。珍しいな、こんなとこ来るて。
なんか、要るもんあった?」
「あ、はい」
楠くんは、少し頬を赤らめた。
「
のぞみ殿を───」
「うん?」
「あ、いえ。原田先生に【
のぞみ殿を呼んで来い】言われまして」
「左之さん?」
「はい【一緒に出掛けよ】て言うたはりました」
楠くんは時々京ことばに戻る。
そんな彼を微笑ましく見て、あたしはうなずいた。