<7>
「さむっ」
あたしはぶるっと震えて起き上がった。
胃がだいぶ楽になっている。
お堂には、あたし一人取り残されていた。
境内を見渡すと、お菊ちゃんと総司くんが向かい合って立っているのが見えた。
散らばっていた子供たちが、お菊ちゃんの周りに集まってきている。
「もうそんな時間か」
あたしは、のろのろと立ち上がって帯をゆるくしめた。
菊ちゃんが、あたしに気付いて手を振る。
「菊ちゃん、おにぎり、ありがとう!」
あたしが叫ぶと、お菊ちゃんは照れくさそうな笑みを浮かべて頭をさげた。
「ほんま、ええ子やなぁ」
五平も満面の笑みで、あたしに手を振って行く。
あたしは、土方さんから与えられていた【総司くんと菊ちゃんの恋の邪魔をする】という役目をすっかり忘れていた。
袴をはき直して、階段をぎこちない動作でおりた。
菊ちゃんを見送った総司くんが、苦笑しながらこちらにやって来る。
「歩けそう?」
「うん、………」
ずり、ずり、───下駄を引きずりながら歩くあたしの前に、総司くんは背を向けてしゃがんだ。
「ほら、」
「…………でも、」
「歩くの遅くて日が暮れちゃいそうだ」
「ごめん、」
再び、あたしは総司くんの背中にお世話になることになった。