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ロープにしがみつくように水を汲み上げていると、誰かが肩を掴んだ。
びくっとした拍子に、ロープが手から滑り落ちる。
(あ~~~~~~~~~~~っ!!)
井戸の底に、釣瓶がむなしく水の音を響かせた。
せっかくもうちょっとで水がくめたのに!!
また一からやり直しではないか!!!
(誰やねん、ほんまに~~~~~!!!)
振り返ると総司くん。
「もうーー、何すんねんさぁ!
あとちょっとのとこで、釣瓶落としてしもたやぁん!!」
「あ、ごめんごめん!僕が汲んであげるから許して」
気持ち悪いことに、総司くんが素直に謝ってきた。
(なんか、気まずいことでもあるんかな?)
ピンときた。
そうか、夕べ女を買ったから、それなりに気恥ずかしいのかもしれない。
そう思って総司くんの顔を見上げる。
珍しく鼻の下に切り傷を作っていた。
「あのさ、ちょっとした事件があってさ」
「───ふうん?」
「夕べ、屯所に押込みがあったんだ」
「───、え、押込みって?」
強盗みたいなものだろうか。
だけど、ここに強盗に入ろうなんて狂気の沙汰だ。
返り討ちにあうこと間違いないのに。
───でも、昨日はたまたまみんな出払ってた。
(それを知ってた、いうこと?)
ぞく、っとして身体が震えた。
どちらにしても不幸中の幸いだ。
こうなると、【ええことしてて良かった】ということになる。