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8月18日の出陣は、後に【八月十八日の政変】と呼ばれるようになった。
それまで力を持っていた過激派の長州を排除しようと、とある事件の責任問題で小さくなっていた薩摩が会津と結託して、起こしたクーデター(?)のようなものだった。
意気揚々と出陣していった浪士組のみんなは、その働きを高く評価され、【新選組】という新しい名前をもらい、それぞれが給料を支給されるまでになったらしい。
お金を持つようになった男たちが取る行動といえば、この時代は決まっている。
連日連夜、女を買いに走る若い隊士が後を絶たない。
ふと気付けば、前川邸はもぬけの殻という状態になっている。
激怒した土方さんは、【平隊士の門限】を決めた。
外泊が許されるのは隊務が伴う場合だけというわけだ。
「その割には、今日も朝帰りやったと思うんですけど」
あたしは土方さんの肩を揉みながら、やんわりと嫌味を言った。
「外泊禁止でしたよね、確か」
「馬鹿野郎、それは前川邸で寝起きしてる平隊士の連中のことに決まってんだろうが」
「そやけど、そんなん不公平やないですか。
土方さんらは【主従関係】とちごて、【同志】なんでしょ?」
「なら、せっせと隊務に励んで、昇進すりゃあいい。
伍長以上は、屯営外に休憩所を持って、そこで寝泊まりできるようになるんだからな」
ブスっとして土方さんは言った。
「ふうん、ほんなら、土方さんも休憩所を持たはったらええのに」
そう言うと、何故か土方さんは黙ってしまった。
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