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(──ぜんっぜん寝られへんかった)
周りは壬生菜の畑しかないこの辺りは、昼間も静かだが、夜になるとより静かになる。
それが、夕べは野太い声の雄たけびとか、誰かが詩を吟じる声とかが前川邸から絶え間なく聞こえてきて、ただでさえ夕方からドキドキしてるのに眠れたもんじゃなかった。
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昨日土方さんから話を聞いたあと、あたしは平助くんと一くんの部屋に飛び込んだ。
再び戻って来たあたしに、一くんはびくっと肩を震わせてこちらを見た。
二人の周りには鎖帷子や鉢がね、手甲、脚絆などが綺麗に並べられている。
中でも黄色いたすきが目を引いた。
「平ちゃん!」
あたしの剣幕に押されたのか、平助くんも身体を後ろに引いた。
その両肩を掴む。
「ちょっと、明日って何があんのん?!!」
あたしにぐらぐら揺さぶられて、平助くんは頭をカクカクさせていたが、逆にあたしの肩を強く掴んだ。
「落ち着けって!」
ようやく、あたしは脱力して、というより腰が抜けたようにふにゃりと座り込んだ。
「いくさになるん?」
まだお腹のあたりが震えている。
口の中もカラカラで、舌がもつれる感じがした。
「戦ってほど大袈裟なもんじゃねぇって聞いてるけど」
「しかし、騒擾が出来すれば数日に渡るやもしれぬ」
一くんが感情のない声で淡々と言った。
「──は?
一くん、あたしにも分かる言葉遣いで言うてくれる?
【ソウジョウがシュッタイ】てどういうことなん?」