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お相撲から一週間が経とうとしていた。
日中の日差しはまだまだ強いとはいえ、最近朝晩が少し涼しく感じられるようになってきたように思う。
(お相撲がたしか、8月12、13日やったからまだまだ8月半ばなんやけどな……)
旧暦のせいか、なんとなく暦と季節にズレがあって変な感じがする。
そんな、秋を感じ始めた8月17日の黄昏時だった。
お膳を運んでいたところに、前川邸から隊士が一人速足でやってきた。
丁度あたしが縁側を歩いていた時にやってきた彼は、歌舞伎役者ばりのすり足で縁側を滑るように進んでいく。
「なるほど……」
あたしはくるりと回れ右すると、ムーンウォークで進もうとして、「あ、」と気付く。
「あかん、ハダシやった」
「
のぞみ、何やってんだよ。
早く土方さんとこに持っていけよ」
後ろ向きで床をキュッキュいわせているあたしを訝しげに睨んで、平助くんが「しっしっ」と手を振る。
「あー、はいはい」
「そうやって、のろのろやってるから、いっつも余計な一言言われるんだろう?」
平助くんはやってきて、こつん、とあたしの頭にゲンコツをぶつけた。
「はあい」
肩をすくめてあたしは回れ右すると、土方さんの部屋へと向かった。