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テレツク、テンテンツクツク
どこからか、調子の良いお囃子が聞こえてくる。
あたしは、その曲に合わせるように足踏みをした。
「ううう、」
お囃子とは正反対の重々しい唸り声が足元から漏れているが、気にしないで軽快にステップを踏みながら右に左にと小刻みに移動する。
「……、お、お前ぇ、ふざけてるだろ」
「──、わ!?」
土方さんが寝返りを打ったので、あたしはその背中から落っこちるように畳の上に飛び降りた。
「もうーー、急に動いたら危ないですやん!」
そう、「背中を踏んでくれ」と言われて、さっきから土方さんの背中を踏んでいたのだ。
「【もう、】じゃねえ。
お囃子に調子合わせてんじゃねぇよ、馬鹿」
土方さんは、憮然として言った。
「あっはは、気ぃ付きました?」
「【あはは】じゃねぇよ、馬鹿野郎」
「あれ、なんなんでしょう?」
「──ああ、相撲だろ?」
「相撲?」
土方さんは胡坐をかくと、襟を緩めて団扇で扇いだ。
「今日から壬生寺で相撲の興行があるんだよ」
「へえー、あたしも見に行ってもいいです?
……っていうか、有料ですかもしかして」
お小遣いを持っていないあたしは、有料なら誰か金ヅルをつかまえなくてはならない。
「まあ、そうなんだが。
お前ぇ一人くらいどこかへ座らせてやれるだろう」